「もう二度とこんなことはしないでくれ」
 神谷龍かみやりゅうは言った。

 ベッドに腰掛けた涼太りょうたはしばらく無言のまま動かなかった。

 神谷は涼太の両手を握って「ここで俺に約束してくれ」と説得するような低く重い声で言った。

 涼太の両目から涙がポロポロと溢れ出し、神谷の手に落ちた。

 「約束します……」

 「もう一度、言ってくれ」

 神谷も泣きながら、涼太に言葉をうながした。

 「約束します。約束します。約束します」

 三度そう言うと、涼太は神谷の両手に顔をうずめた。

 「俺も、これで安心できる。もう二度と盗みは働かないでくれ。このままじゃ、お前は本当の犯罪者になる。涼太、お前が約束してくれたこと、俺は信じているよ」

 神谷は、ティッシュペーパーを取り出して涼太に渡した。涼太が涙を拭いている。神谷もこぼれる涙を拭いた。

 「どうしてこんなことになったんだろう。。。」

 神谷も涼太も互いに同じことを考えていた。


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 僕は、これで大切な協力者を失った。もしかしたら僕の人生の大きな損失かもしれない。こうなったのは、ぜんぶ自分が悪いんだと思う……。

 でも、神谷さんから指摘されるまで、僕にはよくわからなかった。

 神谷さんのマンションから、アルマーニのスーツ、ゴールドの指輪、ロレックスの時計、アメリカン金貨のネックレスなど、いくつかお金になりそうなものを黙って持ち出した。
 それを質屋に売って、お金に変えた。僕にはお金がないから。

 家出してから、ずっとそうやって僕は一人生きてきた。それが悪いことには思えない。余裕のある人から、その余裕を少しわけてもらっただけ。
 その人にとって大したモノお金じゃない。でも僕が生きていくためには必要なお金……。

 神谷さんは「お金の大小じゃない。信頼の問題だ」って言った。
 信頼って何だろう? よくわからない。

 財布からお金を抜いて、お金になりそうなモノを持ち出したら、その人との関係は僕の中ではリセットされる。もう二度と会うことはないし記憶の中から消される。

 神谷さんもそんな対象の一人だったはずだけど……。

 ただ僕の夢を実現するために神谷さんはたくさんのことをしてくれた。僕にしてくれたこと、それが神谷さんのいう信頼なのだろうか?

 信頼って「信じて頼る」って書くけど、僕の心は神谷さんを頼っていない。反対に神谷さんは僕を頼ってくれたんだろうか? 

 僕は信頼より信用の方がいい。「信じて用意」してくれるだけでいい。

 「人の信頼を裏切りやがって」と責められた。信頼の意味はわからないけど、神谷さんには悪いことをしたと思う。神谷さんに言われるまで、それが盗みだという感覚はなかった。
 
 「犯罪だ」と神谷さんは言った。そうかもしれない。ただ僕は僕が生きていくためにしていることが「犯罪」だと感じなかった。

 「また病気が出たな」と言われた。
 僕は神谷さんにすまないと思う。でもそれは神谷さんが僕の夢のためにいろいろとやってくれたことに対して、すまないと思うだけ。今回のことじゃない。

 でも、お金を抜いたり、人のモノを持ち出したり、そういうときに僕はときどき記憶がなくなる。気がついたら自分の目の前に他人のモノお金が置いてある。

 そう考えると、僕は神谷さんの言うように、本当に病気なのかもしれない……。

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 「本当にすみませんでした」
 涼太が目の前で石のようにかたまり、土下座して謝っている。

 俺のマンションからモノを盗んだのは、これで二度目。
 前回は、脅したり、なだめたり、とにかくモノは返してもらったが、今回は人のモノを勝手に売って現金化している。悪質だ!

 前回の事件が起こったとき

 「もう二度としない」と涼太は誓ったはずなのに。

 この土下座は真実、心から謝罪しているのか、それとも演技なのか俺にはわからない……。

 涼太の気持ちがわからない。

 「キャバ嬢が客からプレゼントでもらったブランド品を質屋に売るのと、人のモノを盗み質屋に売るのは、どちらも気持ちを踏みにじっているのは同じ。ただ後者は犯罪だ!」
 俺は涼太に言ったが、こいつは理解できてるんだろうか? 新宿歌舞伎町でホストをやったこともあるというから区別はつくと思うんだが。

 俺の知り合いの財布から金を抜き取ったことも聞いている。涼太は18歳で家出してから、そうやってこれまで生きてきたんだろう。ただ、こいつも20歳。周りも甘くは見てくれない。これがエスカレートすれば、本当の犯罪者になるだろう。いつか実名でニュースに流れ涼太の両親やきょうだいにも迷惑をかけてしまうかもしれない。

 「涼太、もういい。顔を上げてくれ」
 土下座する涼太を引き起こそうとしたが、頑として動かない。その姿を見ていると、何だか俺も涙が頬を伝わってくる。

 俺が悲しいのは、すでに涼太と決別することを決めたからだ。俺の心は傷ついている。
 そして俺には涼太が持っている心の闇がわからない。涼太の心の闇をこじ開けていく自信がない。

 とにかく涼太の両親には、この出来事を報告する必要があるだろう。本人もそれを恐れている。涼太の将来を考えると、ここでペナルティーが必要だ。

 俺はうずくまる涼太を力ずくで引き起こし、座らせた。


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