いよいよ本日から、当関連ブログの人気作品シリーズのひとつである~青春うたものがたりシリーズ3~「種子島あおぞら教室卒業生」新作品がスタートします。本作品は、昭和30年代前半から40年代前半(日本の高度成長期)の種子島の中央に位置した町、中種子町のある小さな農村地帯M村(M部落)に生まれ、種子島で幼年期から高校を卒業するまでの少年期を過ごした、今は東京に住む下平達也という一人の壮年男性の人生体験を通じて、 “家族愛”のテーマについてその答えを追求していく、ヒューマンドキュメントタッチ作品です。ぜひ、半世紀という時代を超越して“真実の人間ドラマ”の愛と感動に、会いに行ってください。
「父の死」編 1
ようかい ようかい ようかいよ お前が 生まれたふるさとは
遠い 南のさいはて 歴史(とき)の旅人が集う 神話(かみ)の島
「ようかい」/種子島に伝わる子守唄の替え詩
飛行機(YS11機)の窓の下に広がる、種子島の陸と海が調和した自然の美しさが、三年ぶりに帰省する達也に、改めて故郷の素晴らしさを教えてくれた。
今日の種子島は、雲の上の天気の良好さとは裏腹に、全体的に靄がかかりかすんで見えた。
それが、雨のせいなのか?勝手に溢れてくる涙のせいなのか?は、定かではなかった。
父、勇蔵の葬儀に出席するために急遽帰省したのである。
昨夜、帰宅してニ、三分は経った頃だったろうか?!
達也がいつものように悪い癖で、スーツ姿のまま自分の部屋のベッドに寝転んで、テレビのリモコンを無造作に早押しし、何か面白い番組がないかチェックし始めた時だった。
トイレで、用足しを終えたばかりの妻の里美が、いきなり神妙な趣をして話し掛けて来た。
里美の、いつになく落ち着きのない表情を見て、何かがあったことだけはすぐに判った。
だが、それがまさか、父勇蔵が危篤状態だったことを伝えるための話だとは、まったく予想もしていなかった。
里美は、達也の立場を気遣うように、普段とはまったく違う丁寧な口調で、姉寿子からの伝言を話した。
「夕方五時頃だったけど、寿子さんから電話があって・・・・・」
「・・・・・」
「勇蔵爺ちゃんが、今日の昼過ぎに危篤状態になったって・・・・・」
「・・・・・」
「寿子さんの話しでは、なんでも突然のことだったみたいよ」
「えっ?」
「あなたに、その場で電話しようと思ったんだけど・・・」
「寿子さんが元気になったようだし、あなたが仕事中によけいな心配するといけないから、話すのは帰ってからでいいって言うもんだから」
「そう・・・」
里美は、僕の返事がやけにあっさりしすぎていたので、少し面食らっていたようだった。
そして、ちょっと話しづらそうにして、少し会話に間をおいた。
それもそのはずだった。
僕自身、勇蔵が危篤状態だったと聞いても、当初は正直いってピンと来なかったからである。
もし、達也のこの話を亡くなる前の勇蔵が聞いたら、きっと寂しい思いをしたかも知れない。
でも、それは偽りのない真実だった。
正直に言ってしまうと、まるで里美の話しが自分の父親のことではなく、まったく知らない他人ごとのように聞こえていたのである。
とはいえ、これまで勇蔵の存在を決して否定していたわけではなかった。
それは、勇蔵だけではなく、母小春に対しても同じ思いを持っていた。
その一番の理由は、長い間親もとを離れて生活しているうちに、現実と過去との時間の差のずれが、知らない間に自分の中で勝手にごっちゃごっちゃに入り混じって、いつの間にか心理的に錯覚するようになっていたからだった。
そしてその結果、達也の中では勇蔵と小春の存在が、空気のようなものになっていたのである。
もっと極端の言い方をすれば、これまで帰郷して歳月の流れと共に、年老いていく勇蔵と小春の姿を、何度となくすぐ目の前で見ているのにもかかわらず、自分とって都合よく勇蔵と小春の姿が偶像化されてしまい、さも二人が永遠に歳を取らずに死なない仙人でもかのようなイメージを、自分の頭の中に勝手に植えつけてしまっていたのである。
実は、常にそれを肯定し実体験しているのも、また紛れもない事実だった。
それは、帰省するたびに現実には年老いた両親の姿を、常に目の当たりにしているにもかかわらずに、何故だか?いつも帰京して都会の忙しい生活に戻ったとたんに、必ず頭の中に浮かんで来るのは、まったく歳を取っていない二人の若き日の姿だからである。
また、それはまさしく、現実の年老いてみすぼらしくなった二人の姿とは正反対の、父親や母親としての威厳と誇りに満ち溢れて働いている、子供の頃に見ていた温かくてでっかい背中の勇蔵と小春の姿だった。
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