
東京の雨
ひさしぶりにどしゃぶりの雨が東京に降った 僕は電話ボックスで雨宿りをしていた
もう立ち寄ることがなくなった この場所で 息で曇りかかったガラスに寄りかかっている
電話もかけることもなく 受話器も触っていない ただ ひたすら 行きかう人達を見ていた
学校帰りのびしょ濡れになりながらの少女 傘もささずに歩き続ける老夫婦
声を掛けたかったけど 雨の音で消されてしまう気がした 東京に流されている自分がいた
雨の音でもいいから 僕の記憶から過去を流してくれ 体中から洗いざらい 流れてくれ
マンションの向こう側は太陽が射していた 上を向くと網の目の電線が揺れ動いている
なぜか 僕の回りだけ 雨がゴウゴウと降っている 薄い胸板に手を置き心臓の音を聞いていた
賑やかなパチンコ屋の音も消されるぐらい 果てしなく僕を叩きのめすほどの雨の音だった
答えがわからない人生 答えなんて わかるはずもない人生
希望と呼べる空を見ながら 風で流れる雲を震えながら 東京の空を見ている自分がいた
雨の音でもいいから 僕の記憶から過去を流してくれ 体中から洗いざらい 流れてくれ
詩:隙間





