極右の3つの柱
以下では、極右の中でも民主主義的な手続きを踏まえる「急進右派」に焦点を定める。政治学者のカス・ミュデによれば、この急進右派のイデオロギー的コアを構成する要素は三つある。それが、「ネイティヴィズム」「権威主義」「ポピュリズム」である。
①ネイティヴィズム(排外主義)
ネイティヴィズムとは、国家は「ネイティブ集団(=国民)」の構成員のみによって占められるべきであり、非ネイティブな要素(人や思想)は均質な国民国家にとって、根本的に脅威であるとするイデオロギーである。これはリベラルも含みうる広義のナショナリズムとは区別される。「ネイティブ性」を規定する基準は、民族・人種・宗教など多様であり得るが、必ず文化的要素を含む。例えばアメリカではWASPが先住民に対して「真のネイティブ」を主張していたり、イスラエルではユダヤ人がパレスチナ人に対し「先住民族」を自称することがあるように、どの基準を「ネイティブ」として採用するかは主観的で、ベネディクト・アンダーソン的に言えば「想像されたもの」に過ぎない(*5)。
②権威主義
権威主義は、社会秩序の維持や強い国家、厳罰主義を重視し、権威に従わない者は処罰されるべきであるとする価値観である。これはドイツ・フランクフルト学派の哲学者アドルノがかつて『権威主義的パーソナリティ』において指摘したように、内集団においては権威的人物を賞賛し従属する一方で、外集団に対しては「道徳的権威」の名の下に制裁を加える態度に結びつく。
③ポピュリズム
ここでのポピュリズムは、政治的手法ではなく「イデオロギー」として理解されるべきものである。イデオロギーとしてのポピュリズムとは、社会は究極的には「純粋な人民」と「腐敗したエリート」という二つの均質で敵対的な集団に分けられると考え、政治は人民の一般意志(volonté générale)の表現であるべきだとする思想である。「人民の一般意志」こそが最も重要であると考えられるため、人権や憲法上の保障すらそれに劣後することがあるのが特徴だ。 この「急進右派=ネイティヴィズム+権威主義+ポピュリズム」という定義に基づけば、他の党派との差異もより明確に浮かび上がる。
※人民の一般意思は、非常に狡い言い方だから、代わりの言葉を考えなくてはならない。
たとえば保守主義は伝統や宗教を重視するが、必ずしもネイティヴィズムやポピュリズムを伴わない。民族地域主義は地域自治や分離を志向するが、排外主義は不可欠ではない。そして単なるポピュリズムは反エリート的であっても、排外主義や権威主義を必ずしも備えない
