長々と続けてきた旅の思い出だが、この稿でペンを置くこととしよう
マダムは何かと僕のことを気にかけてくれていた。
まあ、僕以外の男女が一組になってしまったからなおさらだったのかもしれない。
ある日、「明日は朝市に行くわよ!」と誘ってくれた。一緒に家を出て、メトロに乗って駅を降りて向かった先にその朝市はあったが、朝早くから大勢の人で大変な賑わいだった。
その時の様子を写真に収めていたので貼っておこう。もしかしたらここに写っているのがマダムかもしれない。
とするともう60は超えてるね。あ~ そうだった、だから彼氏が来ることに驚きがあったんだった。何歳になろうと恋をしているんだね。
もう一つ、ちょっと驚いたのは、僕が日本に帰る日のことだ。
支度を整え、マダムに挨拶をすると、マダムは大きな目に涙を浮かべていたんだ。
僕は、まさかそんな風になるとは思ってなかったから、なんかとても嬉しかった。
慈悲に満ちた彼女の涙は雫となり、たちまちのうちにパリ20区に愛情の湖を湛えてしまうかのようだった。
メトロに乗った後も僕はしばらく彼女の涙のことを思っていた。
僕の方は彼女に、お世話になったお礼にお手玉をプレゼントした。日本を発つ前にたまたま、おばあちゃんが作ったからと実家から送られてきた本物のお手玉だ。彼女はとても喜んでくれていた。
マダム、元気かな。もしまた逢えたら僕のこと覚えてくれてるかな。

