【労働契約法制定の背景(1)】
労働関係を取り巻く状況をみると、就業形態が多様化し、労働者の労働条件が個別に決定され、又は変更される場合が増加するとともに、個別労働関係紛争が増加しています。しかしながら、我が国においては、最低労働基準については労働基準法(昭和22年法律第49号)に規定されているが、個別労働関係紛争を解決するための労働契約に関する民事的なルールについては、民法(明治29年法律第89号)及び個別の法律において部分的に規定されているのみであり、体系的な成文法は存在していませんでした。
このため、個別労働関係紛争が生じた場合には、それぞれの事案の判例が蓄積されて形成された判例法理を当てはめて判断することが一般的となっていましたが、このような判例法理による解決は、必ずしも予測可能性が高いとは言えず、また、判例法理は労働者及び使用者の多くにとって十分には知られていないものでした。
一方、個別労働関係紛争の解決のための手段としては、裁判制度に加え、平成13年10月から個別労働関係紛争解決制度が、平成18年4月から労働審判制度が施行されるなど、手続面における整備が進んできたところです。
このような中、個別の労働関係の安定に資するため、労働契約に関する民事的なルールの必要性が一層高まり、今般、労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則や、判例法理に沿った労働契約の内容の決定及び変更に関する民事的なルール等を一つの体系としてまとめるべく、労働契約法が制定されました。
労働契約法(以下「法」といいます。)の制定により、労働契約における権利義務関係を確定させる法的根拠が示され、労働契約に関する民事的なルールが明らかになり、労働者及び使用者にとって予測可能性が高まるとともに、労働者及び使用者が法によって示された民事的なルールに沿った合理的な行動をとることが促されることを通じて、個別労働関係紛争が防止され、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することが期待されるものです。(厚生労働省「労働契約法のあらまし」H24.12より抜粋)
最近では労働契約20条の「不合理な労働条件の禁止」に注目が集まっています。有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることを禁止するルールです。この労働契約法第20条違反について争った判例では次のものが有名です。長澤運輸事件(東京高裁H28.11.2)・ハマキョウレックス事件(大阪高裁H28.7.26)。また、平成28年12月20日には厚生労働省より「同一労働同一賃金ガイドライン案」が発表されました。日本において「同一労働同一賃金」が実現するためには労使ともに理解が必要であり、労働契約法第18条・19条が定めている有期契約労働者に対して企業がどのような対応を取るべきか、今まさに転換期を迎えていると考えます。先の判例が企業側にもたらすと考えられる影響と「同一労働同一賃金ガイドライン案」の解釈等については別の機会に述べていきたいと考えます。
