■過去の悪夢教訓に対策進めるも「思わぬ感染ルートで…」
韓国で蔓延(まんえん)する鳥インフルエンザに、九州の養鶏関係者の緊張が高まっている。過去2回、韓国で広がった直後に、宮崎県内の養鶏場で発生した悪夢のような前例があるからだ。鳥インフルエンザウイルスは、渡り鳥に寄生し、海を渡る。国内2割のブロイラーを飼育する宮崎県では、見えない敵との苦しい戦いを続けている。(津田大資)
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「消毒などルールを守っていれば感染は防げるはずですが、鶏舎のすぐ外にウイルスがいる。そんな緊張感を持って対応しています」
宮崎県家畜防疫対策課の西元俊文課長は、こう語った。
今年1月17日、九州の自治体や養鶏業者に衝撃が走った。韓国農林畜産食品省が、韓国南西部にある全羅北道高敞郡のアヒル農家で、H5N8型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されたと発表したからだ。
H5N8型ウイルスは、中国や北朝鮮、ベトナムなどで蔓延するH5N1型ウイルスの亜種とみられる。毒性が強く、ニワトリやアヒルなど家禽が感染すれば、死に至る。
韓国では、その後もウイルス検出が20農場で相次ぎ、殺処分されたアヒルやニワトリなどは250万羽を超える。
ウイルスが指呼の間に迫ったことに、宮崎や鹿児島など養鶏が盛んな県は、警戒レベルを一気に引き上げた。
宮崎県は1月20日、農林水産省の通達を受けて防疫会議を開催し、養鶏場に出入りする人や車の消毒場所、野鳥の進入を防ぐネットの整備など対策の徹底を養鶏業者に促した。
韓国で流行すれば、次は九州の番-。養鶏関係者は、こう心に刻む。
平成19年1月、宮崎県清武町(現宮崎市)の養鶏場で、鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)が確認された。韓国で確認されたほぼ1カ月後だった。
高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された場合、蔓延を防ぐための農水省の指針に従い、養鶏場施設内の全羽が殺処分される。
さらに、半径3キロ以内の他の農場でもニワトリや卵の搬出が制限され、事実上の出荷停止となる。
この指針に基づき、周辺も含め約16万羽が殺処分された。
3年前の被害はさらに甚大だった。
やはり韓国で確認された1カ月後の23年1月以降、宮崎県新富町、川南町、延岡市と次々と感染が確認された。最終的に大分市、鹿児島県出水市にも広がり、九州の計15カ所で103万羽近くが殺処分された。被害額は宮崎県だけで91億円に上った。
農水省の統計によると平成25年2月現在、宮崎県内は2627万羽、鹿児島県内は2616万羽のブロイラーが飼育されている。2県合わせて全国1億3162万羽の4割に達する。
それだけに、鳥インフルエンザ発生は養鶏業者の損失だけでなく、食生活への影響も大きい。23年の発生時は、西日本の鶏肉価格が一時、3倍に跳ね上がった。
過去の悪夢を教訓に、宮崎や鹿児島、大分など養鶏業者が多い県は対策を進めてきた。
宮崎県では担当職員が養鶏場など996カ所を巡回し、防疫態勢を調べている。このうち863カ所は対策に問題なく、不備があった133カ所のうち98カ所も改善されているという。
また、県内10カ所の河畔などで、毎月カモの糞便を採取し、検査をしている。これまでのところ、鳥インフルエンザウイルスは検出されていない。
それでも、不安は尽きない。
宮崎県都城市の養鶏業者の男性(65)は「やるべきことはやっているが、思わぬ感染ルートがあるだけに油断はできない。被害がわずかであっても風評被害が怖い」と語った。
日本に渡り鳥が飛来するシーズンは5月まで続く。警戒は緩められない。