「自分に正直」という言葉が好きな人が多いようです。「正直」を辞書で引くと、「(1)心が正しく素直なこと。偽りのないこと。陰日なたのないこと」とあり、用例として「正直者」とあります。また、「(2)率直なこと。ありのまま」とあり、用例として「正直なところ、迷惑なのだ」とあります。

(1)の意味と(2)の意味は、少し違っています。(1)の意味は「良い意味」で使われます。(2)の意味は、「思ったとおり」であり、必ずしも「よい意味」とは限りません。

「正直」という言葉を聞くと、普通は(1)の良い意味を思い浮かべるように思われます。しかし、「自分に正直」という言葉は、どちらかというと(2)の意味であって、「良い意味」とは限らないように思います。

「わがまま」を、「自分に正直」という言葉を使って、正当化しようとしているように感ずることがあります。「正直」という言葉で、(1)の意味の響きを与え、何かいいことであるかのような印象をあたえて、ごまかしているように思われます。

他人に気を使って自分の気持ちを見失うことは勿論よくないでしょうし、自分がしたいことをすること自体は必ずしも否定されるべきことではないでしょう。でも自分の後ろめたさを、「自分に正直」という言葉を使って、言葉でごまかすことは、本当の意味で自分に対しても、(1)の意味での「正直」ではないと思います。

他人に対して(1)の意味で正直であることが良いことであるように、同じ意味で「自分に正直」であることはもちろん良いことですが、「正直」の対象を自分に限定するところが、問題であり、本来、自分を含めて誰に対しても誠実であることが必要なのだと思います。