まだ充分勉強できていないのですが、倫理的価値の根拠について、現段階で少しコメントしてみたいと思います。

人間に関する科学は「ヒトがどうであるか」を探求するものであり、「人がどうあるべきか」を科学から導き出すことはできません。進化論生物学も同じだと思います。共感能力や道徳感覚が人間の進化過程で生まれてきたとしても、これらから倫理的価値を導き出すことはできません。結局、「人がどうあるべきか」を論ずるためには、科学とは別の何らかの価値判断が行われざるを得ません。

何を倫理的価値とするかに関しては、神や宗教、社会、国家、家など、いろいろなものを基準にすることができます、神や宗教、国家、家などに基づく倫理的価値に問題があることは、歴史的にもある程度示されているように思われます。また、種の繁栄に基づいて倫理的価値を導きだすことができないことは言うまでもないでしょう。

科学は倫理的価値に根拠を与えることはできませんし、倫理的価値に科学的根拠は必要ないのではないかと、私は思います。そして、倫理的価値は、人間として生きることから導き出すべきではないかと思います。すなわち、人間として生を受けたからには、誰がそれを保障しようとしまいと、自らの生を肯定する権利があるということができると思います。そして生とともに欲求が伴うならば、この欲求の満足を追求するのも当然であり、それ自体を否定される理由はないと思います。

一方、それと同時に、人間が生きる上で、他人ひいては社会の存在は無視できません。個人が欲求の満足を追求することが、他人の欲求満足の追及と矛盾する状況が必ず発生します。このような矛盾がなければ、倫理という概念自体生まれる余地がなく、倫理が必要となるのは、このような状況があってこそではないでしょうか。

他人の利益を省みない利己性が、倫理として成り立たないのは、倫理が必要となる出発点から考えても当然と思われます。またそのような利己性は、人間の共感能力や道徳感覚とも相容れないものだと思います。また、人間に利他性があったとしても、利己性がないことにはなりませんし、人間の遺伝子や人間そのものが、利己的にできているとすればなおさらのこと、利害の対立は必然であり、人間の間において倫理性が求められることになるのではないでしょうか。