闇夜に紛れて自転車を漕ぐ。
何百回と通い慣れた駅から家への帰り道。
今日はいつになく多くの言葉を交わしたせいか、あの子を思う気持ちが、普段よりも強く胸を焦がす。
脳内で流れるラブソングが、油のように、止めどない「好き」という感情を燃え上がらせる。
ふと空を見上げる。
数日前まで細い三日月だった月は、もう凛とした半月になっていた。
時の流れは、どうしてこうも早いのか。
あの子と語り合える時間にも、きっと限りがある。
痛いほど分かっているのに、一歩が踏み出せない。
「じゃあね」の一言すらも言えない自分が嫌になる。
燃え上がった熱い気持ちを冷ますかのように、冷たい夜の向かい風が、火照った頬を刺した。