顔をなくした女 | フィラデルフィア ICM 便り

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ソーシャルワーカーの見たアメリカ底辺事情

私はフィラで心療医療の全てを習っているので、日本の心療医療事情の現状に疎いです。


最近、古本で手に入れて読んだ本に「顔をなくした女」という大平健先生の著作があります。


とにかく、10年以上、浦島太郎のわたしです。恐らく、日本では知っていらっしゃる方も多いのであろうこの精神科の先生の著作を初めて読みました。


読んで驚いたのはメンタルイルネスの診療に関する日本とアメリカの大きな違いです。

10年ほど前の著作なので、現在では日本の事情もまた違うのかもしれませんが。


例えば、大平先生が電話で他の精神科医にかかっている患者の相談を受けることです。患者が現精神科医の判断に不安を抱いてのセコンドオピニオンを求める状況なのですが、アメリカではこれは考えられません。


その精神科医に会ったこともない患者が電話で意見を求めることなどこちらではありえないのです。


とにかく医療ミスとなれば速攻、裁判沙汰になるお国柄です。どんな患者とのどんな会話も書類でのサイン・確認・合意からしか始まりません。電話での一見さんからの問い合せにはたとえ、具体的なアドバイスをしない判断でも応答できないのです。


こちらの外来診療医療はまず、初診のため情報収録でインテイクワーカーが患者とセッションをおこなって、病歴、薬歴、生活状況などなどを聞き込みます。この時点で、その医院は患者に医療を行うにあたっての本人の合意や、家族や他の医療機関とのコミュニケーションが必要な場合はその合意も本人のサインを書類にもらって、ようやく治療開始へと踏み出すのです。その手続きが済んで初めて、精神科医との予約にこぎつけるわけです。


なので電話で直接、面識のない患者と医師が会話などは、こちらではありえません。


他にも「国が違えば、こんなに変わるのねぇ」と思うことが本を読んでいて幾つかありましたが、そのうちのひとつが日本にはクライシス・リスポンス・センター(CRC)がないこと。


クライシス・リスポンス・センターは心療版ERです。


自殺の瀬戸際にある人やメンタルイルネスやドラッグなどによる幻覚・妄想のせいで、感情や行動のコントロールが効かなくなった人が自己意思または他人の判断で駆け込むところです。


CRCでは精神科医が診断して、しかるべき病院やデトックス(ドラッグや酒の問題のある人が一定期間、解毒を行う施設)などの施設にCRC から直接、患者を送ります。


大平先生の御本には、先生ご自身が不安定状態の患者さんに急きょ、精神安定の為の注射をして差し上げる記述がありますが、こちらのシステムでは外来医院がこれをすることはありえないのです。


CRCでもアティヴァンなどの強い薬を精神安定のために超興奮状態の患者に与えたりしますが、それも口径薬で注射はありえません。ただ、CRCでは本人や他人に危害をもたらすと見なされた患者(例えば、人に殴りかかるなど)は特殊ベルトで患者を拘束して、ベッドに固定することはあります。


ドラマだらけのCRCでは色んな騒動が持ち上がります。なので、体躯のでかいガードも常駐しています。わたしもクライアント絡みで色んなコト、ありましたわ。


外来精神科医がこのようなクライシスに対応することは例えば、精神科医が患者とのセッション中に起こったような状況でなければ、ありません。患者はCRCやその後の入院後のフォローアップで外来の先生と治療を続けます。


アメリカでは医薬別個です。


医者が処方を出して、患者が薬局でそれを詰めてもらうのは今も同じ。注射は医院内で、看護婦が注射を打ちます。それも患者が定期的に受けなくてはいけない抗精神病薬の注射のみ。注射薬は薬局に注文して、医院に送ってもらわなければいけないのです。


大平先生の患者とのセッションの話は大変、興味深く読みました。

参考になること、「あー、それ、私の現場でもよくあります。患者さんの訴え、こちらでも同じです。」というような部分も色々とありました。


奥が深いというよりは底なしの感がまだ大きい心療医療の世界。


わたしはまだまだ修行の浅い見習い僧デス。



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フィラの国際空港の近くにある公園。

なかなかなきれいな公園です。でもその真上は飛行機の離着陸のコースでしかも、空港のすぐそばだから、騒音は結構なものでした。