見終わってすぐ、「プロモーションが難しい映画だな」という感想を持った。こういうタイプの映画は日本でも、そしておそらくハリウッドでも無いだろう。「ジュラシックパーク」でもなければ、「ゴーストバスターズ」でもない。とにかく「変な映画」なのである。


 確かにストーリーはCG技術でできた得体の知れない怪物が人を襲い人を喰らうのだが、監督も脚本も「スリルと恐怖」一辺倒にする気がさらさら無い。随所で「笑い」を取りに来るのである。とにかくまあ一度見てほしいが、しつこいほど「笑い」をはさんでくる。そのテイストは香港映画のドタバタ・コメディのようでもある。

 だから、「泣きたい」人にこの映画は絶対におすすめできない。日本では最近「泣きたい人のための泣かせる映画」が毎年のように作られているが、そういった「機能性食品」ならぬ「機能性映画」とは、この「グエムル」は対極にある。


 映画の大筋は、ソン・ガンホ演じる主人公パク・カンドゥの娘、ヒョンソ(コ・アソン)が、漢江に突如現れた奇っ怪な怪物にさらわれてしまう。警察は死亡と発表し、家族は悲しみに暮れるが、カンドゥの携帯(実は娘が「機種が古いから電波が届かない」と、娘から貰っていた)にヒョンソから電話が掛かってくる。大きな下水溝にいて脱出できないという。カンドゥは懸命に娘の救出を訴えるが、警察も病院も、宿主動物に接触したため精神を病んでいるのだろうとか、細菌で脳がやられているのだとか、誰も相手にしない。しかしカンドゥと家族(カンドゥの父、弟と妹)はその通話を頼りに隔離病棟を脱出、ヒョンソの救出に向かう。


 矢風の映画レビューは、この映画を韓国映画だという理由でか、日本アニメのパクリだという理由でか、内容も見ないで酷評するのが「流行っている」ようだが、それは放っておくとしても映画の印象として「笑える」が上位に来ているのはあながち嘘ではない


 プロモでは恐怖の怪獣映画のように宣伝しているが、厳密に言えばそれは嘘である。先に述べたように、本当に作り手はいろんな場面で笑わせにかかってくる。この仕掛けが成功しているか失敗しているかは見る側の判断であるが、ただ日本の観客とは笑いのツボが明らかに違うとは感じた。


 私が一番爆笑したのは、パク・ヘイル演じる主人公の弟ナミル(大卒だが学生運動経験者にして無職)が火炎瓶を作って怪物をやっつけに行こうとしたら(またこの弟は火炎瓶を作るのが上手い)、偶然行き先でデモ隊と機動隊の衝突が起こっていたため、タクシーの運転手にデモに行くと間違われるという場面だが、こういうのは社会背景無しには笑いをくすぐれないだろう。


 また、笑いのネタにさんざん「在韓米軍」が出てくるのも、日本の観客にはピンと来ないかもしれない。日本で在日米軍を「笑いのネタ」にする共通認識はない。この映画が韓国でヒットする、というのは何をか言わんやである。


 また、重要な役割を果たす浮浪児の兄弟が「売店荒らし」をして生活している、というのも日本の観客はどこまで身近に感じるのだろうか。2,30年前までは日本の映画でもこういう設定はあったが、今はどうだろう。


 この「グエムル」、韓国では「The Host(宿主動物)」というタイトルのようだが、この宿主動物、というアイディアが映画のドタバタを生み出す鍵になっている。

 怪物が細菌を持っているらしいと米軍から発表され、怪物に触れた韓国人が病院に隔離されてしまう(しかもぞんざいに扱われて)、一方で怪物と格闘して負傷した米軍人は手厚い治療を受けている。こういう設定も、韓国国民の笑いのツボを刺激するのだろう。


 笑福亭松之助風のカンドゥの親父(ピョン・ヒボン)が、どうでもいい話でカンドゥを擁護しようとして弟と妹が疲れから寝てしまう、というノリは私は個人的に気に入ってしまった。

 アーチェリー選手である妹ナムジュ(ペ・ドゥナ。遠山景織子に少し似ている)は好きなタイプの女優である。アーチェリー「銅メダル」というのがイマイチ怪物の「的」に決まらない原因になっている、というのも面白いし、最後の最後でビシッと命中させる、というのも格好いい。


 ラストシーンで、主人公のソン・ガンホが雪の降る漢江沿いの売店で、引き取った浮浪児の弟と一緒に食べる夕食は、哀しくも続いていく日常を描いていて心に残る。(でもこの主人公、自分の指名手配のビラを額に飾る脳天気ぶりは変わらない)

 ネット上のレビューではこのラストが不評のようだが、最後まで「予定調和」的な感動を拒否するこの作品世界ならではの結末である。モニターリサーチで結末が決まっていくハリウッドでは絶対にできない(やらない)結末と言える。

 監督はポン・ジュノ。私と同じ歳である。ソン・ガンホも2歳上。今、韓国で私と同世代はこういう映画をやっているんだ、ということを知っただけでも意味がある鑑賞となった。いわゆる「韓流」の甘ったるいメロドラマは、昔も今もこれからも、決して観る気がしないが、この映画なら、ヨーロッパのマニアック映画を観る気分で観られる。


 15点満点(採点基準はここ を参照)で私のジャッジは11点(お得度4、人に見せたい度3、自己満足度4)

 想像でしかないが、小学生や中学生の娘を持つ男性やいわゆる「全共闘世代」には、この映画がピンポイントで「琴線」に触れるかもしれない。