次男を亡くした後、長男をつれて再婚した里枝。
穏やかで優しい夫「谷口大祐」との間に娘が生まれ
幸せに暮らしていた矢先、「谷口大祐」が事故死する。
夫が絶縁していた実家に連絡をとったことから
彼が「谷口大祐」とは全く別人だったことが発覚する。
里枝から相談を受けた弁護士・城戸は
調査を進めるうちに、その人物Xの正体を探ることにのめり込んでいく。
「自分以外の何者か」になることへの憧れ
自分を覆うものを脱ぎ捨てて得られるもの
謎の人物Xを通して、城戸は、自分自身の内面と向き合うようになる・・・
『マチネの終わりに』とはまた違ったテイストの小説だった。
同じ作者なのを感じさせるのは、時折、背景に流れる音楽くらいかな。
他人の過去を引き継ぐこと
その先の未来をその人に替わって紡いでいくこと
そんな中で、もはや「名前」なんて何の意味もないけれど
里枝にとって「大祐」は「大祐」でしかないように
周囲の人たちの記憶の中で生きているのは確かに本物なのだ。
「谷口大祐」という着ぐるみは、
元の谷口大祐と、入れ替わった後の谷口大祐と
どちらが幸せな人生を送れたか。
何も知らなかったはずの里枝の長男の俳句がすごい。
蛻(ぬけがら)にいかに響くか蝉の声