目を覚ませば見慣れた風景があった。
神綺は椅子に座ったまま大きく伸びをした。肩肘を突いたまま寝てしまったようで体の一部が悲鳴を上げた。腰とか。
「痛っ・・・・・・たた」
伸びの態勢から一気に体を曲げうずくまった。その拍子に銀の中途半端なサイドテールが大きく揺れた。
「どうかなさりましたか?」
傍らから声がかかってきた。メイドの格好をした少女がそばに控えていた。
「ううん、大したことはないよ。」
「……そうですか。神綺さま、『オモテ』がなにやら騒がしいようなのですが、様子を見に行ってもよろしいでしょうか?」
騒がしいとはどういうことだろうか。
「夢子ちゃんにまかせるよ。」
「わかりました、行って参ります。」
少女は神綺の正面に移動して一礼し、背後の廊下をわたっていった。
この場から見るとその道は果てしなく続いているように見えるが、少女の歩く速度でもじきに姿が見えなくなった。
一人になり、神綺は見慣れた風景をまた眺めた。
周囲は深い闇に覆われている。その中を先ほどメイドの少女がわたっていった廊下が一本伸びている。ここに入れるものはこの世界でもごく限られた者のみである。
ここは魔界の『ウラ』の空間だ。中枢といっても差し支えはない。ここと『オモテ』とを含めて『魔界』である。
神綺はその創造主である。空間だけではなくそこに存在するものすべてを創ったのだ。
神綺は再び椅子の肘掛に頬杖を突き、瞑目した。
意識が離れるまでそう時間はかからなかった。