なかなか抜け出せない。


今回の奴は結構、いや今の自分の力ではかなり手強い。


年初めはかなり余裕があった。


年末にボーナスが入り、支援者からの援助もあった。


そのお蔭でコンテストに集中して生活する事が出来た。


去年の今頃は、もう競技としてのボディビルを諦めないといけないなと思っていた。


本当はそうするべきだったのかも知れない。


が、意外な所から思わぬ収入があり、これはチャンスだと思い出場する決意に変わった。




ところが、コンテストが終わり、今になって一気に状況が変わった。


もう明日生活する資金も使い果たし、どうやって生き延びようか考える日々。


支援者にも愛想を尽かれた。


去年母親が倒れてからずっと金欠状態が続いている。


もともと、自分一人分位しか生活出来ない程の給料だった。


そこに母親の入院費、退院してからの二人分の生活費など。


困窮している生活費の中で、ビルダーとしての特別な食費は大きい。


急な入院費の返済の為に作ったクレジットカードと、あまり使いたくなかった他のカード


2社からの貸し入れで何とか食い繋ぎ、今では合計3社から返済に追われる毎日。


正直、ボディビルなんかやってる場合じゃない。


今年が最後なのかも知れない。




・・・でも、やめたくない。




ボディビルがなかったら今の俺はいない。生きていないかも知れない。


ボディビルがなくなったら、俺には何もない。ただの屑でしかない。


もっとも、社会人としてこんな生活を送っている自分はもともと屑なのだが・・・


だからこそ、才能はないけどボディビルダーとしての自分は捨てたくない。


本当にこれしかないから。




アメリカのテレビシリーズで「プリズン・ブレーク」というドラマがある。


主人公マイケルは、無実の罪で死刑囚となった兄リンカーンを救う為、


今の自分のすべてを捨て、背中に脱獄・逃走経路を織り込んだタトゥーを纏い


自ら刑務所に収監される。


マイケルはどんな小さな隙も見逃さないアイデアと、緻密に練り上げられた計画をもとに、


時には泥に塗れても厭わない不屈の根性で、難攻不落の刑務所から兄を救出する。


途中、何度も絶体絶命の危機に見舞われても、諦めない強い意志とブレインで


困難から脱出し続ける。


そしてとうとう、本当の自由を兄と共に手に入れる。




自分にはマイケルほどのブレインは当然ない。


だけど、探してないだけでどこかにきっと脱出への経路があるはず。


自分の今の甘ったれた境遇など気にしている場合ではない。


“どんな方法”でもそれを厭わない強い意思で乗り越えなければならない。


マイケルに措かれた境遇よりは(ドラマだが)、自分の状況など遥かに楽観的だ。


困難の入り口へは簡単に入れる。だが出口を探すのは相当難関だ。


だが、必ず出口はある。




どんなに汚くて小さな隙間でも、絶対見つけ出して、脱出してみせる。




自由を取り戻すんだ。

































残るはずのない決勝審査に呼ばれてしまい、いそいそと舞台袖に並ぶ事に。


ゼッケン1番の選手の広い背中を見ながら再びステージに上がり、養生カーペットの上に貼られた         


立ち位置決めの丸シールの上でリラックスポーズを決める。


ファーストコールの発表。


当然呼ばれない。予想通りのトップ比較。


自分の目にも1番と3番の選手の優勝争いだと思われた。


自分は4位~7位までの順位づけ比較に呼ばれる。


比較の感じからして7位に決定だなと、その時点で分かってしまった。


ステージ上で自分の順位が分かってしまい、気分は上の空。客席は結構空いてるなぁ・・・


などと心の中で呟きながら、ステージ上で本当のリラックス気分。


分かってはいたが、目の前で優勝候補の最後の比較をされている3人を羨ましく思った。


何とも惨めな気分で比較審査終了。


ステージを後に、控え室の端でボーとたたずむ。


これからの事を考え、食事を取る事に。タッパーに入れたボイルした鶏の胸肉にカットトマトを


かけて食した。


・・・美味くない。でも取り合えず腹に詰めた。炭水化物としてパスタなども多めに持ってきていたが、


もうこれ以上浮腫みたくないので、パスタは食べない事にした。


ただし、炭水化物もパンプアップの為には必要かなと思い、チョコレートだけは食べるようにした。


そう言えば、前日からカーボアップとしてパスタを数回に分けて大量に食べたけど、


当日のさっきの肝心のパンプアップではぜんぜん筋肉が張らなかったな・・・


やっぱり、自分には前日からのカーボアップは向いてないなと思った。


調整は難しい。結局自分の身体は自分に聞くしかない。


理想とする方法があるとしても、誰もがその方法に当てはまるとは限らない。


ブログにも書いていたが、改めて自分自身で体感する事になってしまった。


実験は失敗。コンテスト経験の浅い自分にはいい勉強だったのかな・・・


と思いながら不味い食事を終わらせる。


部屋でゴロゴロしていると予選の通らなかった選手達が皆に挨拶しながら帰り始めた。


自分より遥かに仕上がりがいい選手もいたのに・・・


仕上がりきれてない自分が何だか申し訳なく思えた。


重量級の審査基準は軽量級とは違うのだろうか?


審査員が求めている身体に作り上げるとともに観客が求めている身体にもならなければいけない。


選手として大会に出ると言う事が、一人よがりであってはならない。


これは選手として大会に出続けないと分からない事実である。


自分で鏡に向かい身体を見て判断するのと、審査員と同等の目で客観的に見てもらうのでは


全く違う世界なのだと、改めて思い知らされる。


結果を求めるのであれば、最低でも大会に出る3ヶ月以上前から数回にわたり


見識眼のある方に判断・指摘してもらう機会が必要なのだろう。


今回は階級を上げて出場するという目標があったので、仕上げきってしまうとこの階級で出れない


というのが分かっていた。


なのでそういった見識眼のある方に見て頂く機会を今回はあえてもたなかった。


もちろん階級を戻しても勝てるという保障もないし、実力もない。


なので、これからはどんどん体重を上げて、ひとつの目標である


 “観客が喜ぶ大きな筋肉を作る” 為にある程度体重残して大会に出場する事にした。


とはいえ、クラス別を見に来るような目の肥えた“見識眼のある”観客には、


今回の自分の身体ではとても喜こんでもらえない身体であったことは間違いない。


しばらくして、超級の選手達が控え室に戻ってきた。


先程と同じ光景が繰り広げられる。


残った者。去る者。


自分の目には羨ましいほどの巨大な筋肉を身にまとった彼らでも、振るい落とされ


寂しく荷物をまとめて帰って行く。


皆、スポーツマンらしく清々しく残った選手を称えながら控え室を後にする。


ボディビルダーは他のアマチュアスポーツと違い、大会出場の為に膨大な犠牲を伴って出場して来る。


選手は皆その気持ちが分かっている。だから、


・・・本当は悔しいはずだ。




午前中の審査もすべて終わり、しばらく控え室は静寂に包まれる。


静かだった。いびきをかいて寝ている者もいる。


自分も熟睡していたようだ。




誰かが身体を揺する。


同じ階級の選手がわざわざ起こしてくれた。


「みんなもう(バックステージにパンプアップしに)行きましたよ」


辺りを見渡すとその起こしてくれた選手と自分以外誰もいなっかた。


・・・ヤバイ!


急いでバックステージに行くと、もう70kg級の選手達が必死の形相でパンプアップしていた。


75kg級の選手もちらほらとパンプを始めていた。


まだ間に合うなと思いながら、午前中置きっぱなしにしておいたダンベルで、ゆっくりとパンプ


を始めた。


真ん中に敷かれた二畳ほどのカーペットの上に用意してあったダンベルで、


選手達が四方を囲みながら、お互い向かい合って、静かにパンプアップしている。


凄い光景だ。


端の方で静かにパンプする者。フリーポーズの振り付けを反復練習する者。サウナスーツを


着込んで水分を排出させながらパンプする者。腕には皆加圧バンドをしている。


薄暗いダウンライトの下。ここではみんなより大きく体を膨らませる事しか考えてない。


凄い世界だ。


70kg級もフリーポーズが終わり、最後の比較審査に入った。


これが終われば、75kg級のフリーポーズになる。


1番の選手の演技が終わり、自分の番が回ってきた。緊張はあまりなかった。


今回のフリーは前もって作って頂いたフリーを練習していたので、気分的にはある程度


余裕があった。


ただ、順位はある程度決まっているのは分かっていたのでフリーで挽回するほどの元気は


なかった。演技にはその気持ちが表れていたのだろう。構成して頂いた方に後でジムでお会い


した際に「もっと元気よくやりなよ!」と言われた。・・・申し訳ない。


最後の比較も終わり、控え室に戻る。


小腹が空いたので、もう一枚チョコレートをやけ食いし、持ってきた桃の缶詰も食べようと思った


が、缶切りを忘れて食べる事が出来なかった。


持ってきたダンベルセットをケースに収納し、着替えや食料用のクーラーボックスをバックに収納し


荷物キャリーにくくりつけて帰る準備を済ませる。


あとは7位の順位を聞いて帰ろう!と気楽に最後のポーズダウンの時間を待った。


そこからポーズダウンまでの時間は早かったように思う。


女子、60kg級階級からポーズダウンスタート。


65kg級で意外な事が。バックステージでそのバルクで存在感を放ち、誰もが優勝するだろと


思っていた選手がまさかの4位に・・・


関東クラス別で優勝していた選手だっただけに、いかに東京のレベルが高いのかがよく分かった


瞬間だった。


さあ、いよいよ75kg級の番だ。などと意気込みは正直なかったが、ステージに上がり2~3ポーズ


を取ると、速攻でコールされ結果は予想通り7位。


後は誰が優勝するのかを選手の後ろから観賞することに。


結果は3番の仕上がり・プロポーションに優れた選手が優勝した。


自分はバルク・カット共に素晴らしい大腿部を持った1番の選手が優勝すると思ったが、全体的な


完成度で3番の選手が3階級制覇という凄い偉業で幕を閉じた。


75kg超級で優勝した選手は、正直自分とは次元の違うレベルのデカさだった。




大会開始当初から、全くやる気がなく、何の楽しみもなかった大会もやっと終了し、


応援してくれたジムの仲間とお疲れ会で都内のステーキ屋へ。


久々に食べた濃い味付けの油たっぷりの牛肉は最高に美味く、長い間減量食ばかりで


満たされなかった身体がとても満足した楽しい時間だった。




・・・でも、この虚無感はなんなんだろう?・・・帰りの電車の中でなんとも不満足な気分に


陥りながら、疲れきって家路についた。
























































開会式が始まるので、選手は舞台裏に集合する事に。


なぜか75kg級のプラカードを持って一番前に立つことに。こんなボテボテの身体で恥ずかしい・・・


長く感じた開会式が終わり、一恥かいてステージをあとに控え室に逃げ込む。


皆デカイので広いはずの控え室が狭く感じる。これから戦う選手同士と過ごす独特の緊張感。


嫌いじゃなかったが、今回は違った。  ・・・早く帰りたい。


ステージでは早くも軽量級の選手達の戦いが始まっていた。今回の60、65、70kg級は30名近くの大所帯だ。


その為、舞台裏/バックステージは所狭しとパンプアップ合戦になっていた。


バックステージの真ん中にダンベル類も用意されていたが、さすがにこの人数では自分が使う時間も限られてし


まうなと、わざわざ重い思いをしてダンベルセットを持ってきて良かったなと思った。


そろそろ、65kg級の二段階に分けた比較審査が終わり、そのまま決勝審査が始まる事に。


バックステージに流れて来た選手達にそのまま決勝進出者の番号が読み上げられる。


決勝に残った選手は、喜びもつかの間、そのまま直ぐにステージに流れて行くハードな進行。


しかし、これが終わったら、直ぐに70、75kg級と比較審査に入る為、この辺りから自分もパンプアップを開始。


今回、自宅から7.5kg×2のダンベルセットを持ってきたが、すでに塩・水抜きをしている身体にはこれで十分だと


思った。バックステージのダウンライトに照らされる各選手達の身体が、よりいっそう膨らんでハードになって行く


さまを目の前で見ながら、自分自身も黙々と各部位のパンプアップをしていく。


みんなデカイな・・・


そう心の中でつぶやきながら、テンションは低いまま・・・それでも何とか少しでも筋肉を膨らまれようと意識を集


中して種目をこなす。途中どうしても一口水が飲みたくなり、給湯室で水を飲んでしまった。


まあ、少量なら大丈夫だと思い、逆にパンプもしやすいのではと気にしないでその後も何回か水を飲んだり、


水で髪をなでしつけたりしてパンプアップをしながら、給湯室に出たり入ったりを繰り返していると、とうとう75kg


級の選手達にお呼びがかかった。いよいよ出番&これでもう帰れると思いながらステージ脇に並んだ。


自信は全く無かったが、もうやるしかないと思いステージに上がる。


規定ポーズを4種類、並び替えを行ってポーズを淡々ととっていく。


ボーダーには呼ばれなかった。


参加選手全員を紹介する為のフリーポーズを何ポーズかとって終了。


舞台裏に帰ってきて決勝進出者の発表。


さあ、やっと帰れる。と思った。


「今から名前を呼ばれた方は直ぐに決勝審査を行いますので準備をして下さい。」




「・・・1番、・・・2番(自分)、・・・3番、・・・」




へ?俺?



                                             ・・・つづく