残るはずのない決勝審査に呼ばれてしまい、いそいそと舞台袖に並ぶ事に。
ゼッケン1番の選手の広い背中を見ながら再びステージに上がり、養生カーペットの上に貼られた
立ち位置決めの丸シールの上でリラックスポーズを決める。
ファーストコールの発表。
当然呼ばれない。予想通りのトップ比較。
自分の目にも1番と3番の選手の優勝争いだと思われた。
自分は4位~7位までの順位づけ比較に呼ばれる。
比較の感じからして7位に決定だなと、その時点で分かってしまった。
ステージ上で自分の順位が分かってしまい、気分は上の空。客席は結構空いてるなぁ・・・
などと心の中で呟きながら、ステージ上で本当のリラックス気分。
分かってはいたが、目の前で優勝候補の最後の比較をされている3人を羨ましく思った。
何とも惨めな気分で比較審査終了。
ステージを後に、控え室の端でボーとたたずむ。
これからの事を考え、食事を取る事に。タッパーに入れたボイルした鶏の胸肉にカットトマトを
かけて食した。
・・・美味くない。でも取り合えず腹に詰めた。炭水化物としてパスタなども多めに持ってきていたが、
もうこれ以上浮腫みたくないので、パスタは食べない事にした。
ただし、炭水化物もパンプアップの為には必要かなと思い、チョコレートだけは食べるようにした。
そう言えば、前日からカーボアップとしてパスタを数回に分けて大量に食べたけど、
当日のさっきの肝心のパンプアップではぜんぜん筋肉が張らなかったな・・・
やっぱり、自分には前日からのカーボアップは向いてないなと思った。
調整は難しい。結局自分の身体は自分に聞くしかない。
理想とする方法があるとしても、誰もがその方法に当てはまるとは限らない。
ブログにも書いていたが、改めて自分自身で体感する事になってしまった。
実験は失敗。コンテスト経験の浅い自分にはいい勉強だったのかな・・・
と思いながら不味い食事を終わらせる。
部屋でゴロゴロしていると予選の通らなかった選手達が皆に挨拶しながら帰り始めた。
自分より遥かに仕上がりがいい選手もいたのに・・・
仕上がりきれてない自分が何だか申し訳なく思えた。
重量級の審査基準は軽量級とは違うのだろうか?
審査員が求めている身体に作り上げるとともに観客が求めている身体にもならなければいけない。
選手として大会に出ると言う事が、一人よがりであってはならない。
これは選手として大会に出続けないと分からない事実である。
自分で鏡に向かい身体を見て判断するのと、審査員と同等の目で客観的に見てもらうのでは
全く違う世界なのだと、改めて思い知らされる。
結果を求めるのであれば、最低でも大会に出る3ヶ月以上前から数回にわたり
見識眼のある方に判断・指摘してもらう機会が必要なのだろう。
今回は階級を上げて出場するという目標があったので、仕上げきってしまうとこの階級で出れない
というのが分かっていた。
なのでそういった見識眼のある方に見て頂く機会を今回はあえてもたなかった。
もちろん階級を戻しても勝てるという保障もないし、実力もない。
なので、これからはどんどん体重を上げて、ひとつの目標である
“観客が喜ぶ大きな筋肉を作る” 為にある程度体重残して大会に出場する事にした。
とはいえ、クラス別を見に来るような目の肥えた“見識眼のある”観客には、
今回の自分の身体ではとても喜こんでもらえない身体であったことは間違いない。
しばらくして、超級の選手達が控え室に戻ってきた。
先程と同じ光景が繰り広げられる。
残った者。去る者。
自分の目には羨ましいほどの巨大な筋肉を身にまとった彼らでも、振るい落とされ
寂しく荷物をまとめて帰って行く。
皆、スポーツマンらしく清々しく残った選手を称えながら控え室を後にする。
ボディビルダーは他のアマチュアスポーツと違い、大会出場の為に膨大な犠牲を伴って出場して来る。
選手は皆その気持ちが分かっている。だから、
・・・本当は悔しいはずだ。
午前中の審査もすべて終わり、しばらく控え室は静寂に包まれる。
静かだった。いびきをかいて寝ている者もいる。
自分も熟睡していたようだ。
誰かが身体を揺する。
同じ階級の選手がわざわざ起こしてくれた。
「みんなもう(バックステージにパンプアップしに)行きましたよ」
辺りを見渡すとその起こしてくれた選手と自分以外誰もいなっかた。
・・・ヤバイ!
急いでバックステージに行くと、もう70kg級の選手達が必死の形相でパンプアップしていた。
75kg級の選手もちらほらとパンプを始めていた。
まだ間に合うなと思いながら、午前中置きっぱなしにしておいたダンベルで、ゆっくりとパンプ
を始めた。
真ん中に敷かれた二畳ほどのカーペットの上に用意してあったダンベルで、
選手達が四方を囲みながら、お互い向かい合って、静かにパンプアップしている。
凄い光景だ。
端の方で静かにパンプする者。フリーポーズの振り付けを反復練習する者。サウナスーツを
着込んで水分を排出させながらパンプする者。腕には皆加圧バンドをしている。
薄暗いダウンライトの下。ここではみんなより大きく体を膨らませる事しか考えてない。
凄い世界だ。
70kg級もフリーポーズが終わり、最後の比較審査に入った。
これが終われば、75kg級のフリーポーズになる。
1番の選手の演技が終わり、自分の番が回ってきた。緊張はあまりなかった。
今回のフリーは前もって作って頂いたフリーを練習していたので、気分的にはある程度
余裕があった。
ただ、順位はある程度決まっているのは分かっていたのでフリーで挽回するほどの元気は
なかった。演技にはその気持ちが表れていたのだろう。構成して頂いた方に後でジムでお会い
した際に「もっと元気よくやりなよ!」と言われた。・・・申し訳ない。
最後の比較も終わり、控え室に戻る。
小腹が空いたので、もう一枚チョコレートをやけ食いし、持ってきた桃の缶詰も食べようと思った
が、缶切りを忘れて食べる事が出来なかった。
持ってきたダンベルセットをケースに収納し、着替えや食料用のクーラーボックスをバックに収納し
荷物キャリーにくくりつけて帰る準備を済ませる。
あとは7位の順位を聞いて帰ろう!と気楽に最後のポーズダウンの時間を待った。
そこからポーズダウンまでの時間は早かったように思う。
女子、60kg級階級からポーズダウンスタート。
65kg級で意外な事が。バックステージでそのバルクで存在感を放ち、誰もが優勝するだろと
思っていた選手がまさかの4位に・・・
関東クラス別で優勝していた選手だっただけに、いかに東京のレベルが高いのかがよく分かった
瞬間だった。
さあ、いよいよ75kg級の番だ。などと意気込みは正直なかったが、ステージに上がり2~3ポーズ
を取ると、速攻でコールされ結果は予想通り7位。
後は誰が優勝するのかを選手の後ろから観賞することに。
結果は3番の仕上がり・プロポーションに優れた選手が優勝した。
自分はバルク・カット共に素晴らしい大腿部を持った1番の選手が優勝すると思ったが、全体的な
完成度で3番の選手が3階級制覇という凄い偉業で幕を閉じた。
75kg超級で優勝した選手は、正直自分とは次元の違うレベルのデカさだった。
大会開始当初から、全くやる気がなく、何の楽しみもなかった大会もやっと終了し、
応援してくれたジムの仲間とお疲れ会で都内のステーキ屋へ。
久々に食べた濃い味付けの油たっぷりの牛肉は最高に美味く、長い間減量食ばかりで
満たされなかった身体がとても満足した楽しい時間だった。
・・・でも、この虚無感はなんなんだろう?・・・帰りの電車の中でなんとも不満足な気分に
陥りながら、疲れきって家路についた。