裏車掌です。
昨年から本(ほぼ新書)を紹介する
ブログになっております。
本の紹介記事は、
日曜日と木曜日の朝7時
更新となります。
よろしくお願いします。
はじめに:いま、なぜアフリカなのか
世界の注目がアフリカ大陸に集まっています。
人口増加による巨大市場の出現、電気自動車や再生可能エネルギーに不可欠なレアメタルなどの鉱物資源、そして地政学的な戦略拠点としての重要性。
日本を含む世界各国がアフリカへの関与を急速に深めるなか、この大陸を正しく理解することは、現代の国際情勢を読み解くうえで欠かせません。
遠藤貢著『アフリカ―「経済大陸」の行動原理と地政学』(中公新書)は、アフリカ研究の第一人者である著者が、
複雑に絡み合う大国の思惑とアフリカ諸国の「したたかな」対応を、歴史的な視点と最新の動向を交えながら明快に解き明かした一冊です。
経済大陸としての可能性と課題
本書はまず、アフリカが「希望と絶望の交錯する経済大陸」であるという現実から議論を始めます。
2050年には世界人口の約4分の1がアフリカに住むと予測されており、この人口増加は巨大な消費市場と労働力の源泉として期待されています。
一方で、著者は楽観論に流されることなく、食料問題や人の移動がもたらす課題にも目を向けます。
急激な人口増加は、農業生産の限界、都市への人口集中、そして国境を越えた移民問題といった深刻な課題を伴います。
本書は、こうした光と影の両面を冷静に分析することで、アフリカの実像に迫ります。
独自の行動原理「外向」とは何か
本書の核心をなすのが、アフリカ諸国の政治的行動を理解するための分析概念「外向」です。
これは、アフリカの指導者たちが国内統治の正統性や資源を国外に求める傾向を指す概念であり、脱植民地化から冷戦、
そして冷戦後の現在に至るまで、アフリカ政治を読み解く重要な視座を提供します。
かつては旧宗主国や米ソの冷戦構造のなかで、アフリカ諸国は外部からの支援を巧みに引き出しながら生き延びてきました。
そして現在は、中国やロシア、さらには中東諸国といった新たなアクターが登場するなかで、
アフリカ諸国は再び「外向」的な戦略を駆使し、複数の大国を競わせながら自国の利益を最大化しようとしています。
この視点は、アフリカを単なる「支援される側」「影響を受ける側」として捉えがちな見方に対し、重要な修正を迫るものです。
大国間競争の舞台としてのアフリカ
本書は、アフリカをめぐる国際関係を地域ごとに丁寧に分析しています。
サヘル地域や西アフリカでは、フランスをはじめとする旧宗主国の影響力が急速に後退し、いわば「第二の脱植民地化」とも呼べる事態が進行しています。
その空白を埋めるように進出しているのが中国とロシアです。
中国は「アフリカ+1サミット」などの多国間枠組みを通じて経済的な関与を深め、ロシアは民間軍事会社を活用しながら政治・軍事面での存在感を高めています。
また「アフリカの角」と呼ばれる東アフリカ地域では、紅海やアデン湾といった海上交通の要衝をめぐり、中東諸国と米中の思惑が複雑に交錯しています。
ソマリアの「崩壊国家」化やエリトリアの独立といった地域固有の問題と、湾岸諸国の介入が絡み合う構図は、現代の地政学を理解するうえで極めて示唆に富むものです。
事例から学ぶ:ボツワナの「成功」と変容
本書の特徴のひとつは、具体的な国の事例を通じてアフリカ政治の多様性を浮かび上がらせている点です。
南部アフリカの「優等生」として知られるボツワナは、民主主義体制を維持しながら安定した経済成長を遂げてきた稀有な存在として注目されてきました。
しかし著者は、近年のボツワナが民主主義と権威主義の間で揺れ動いている実態を指摘し、「成功モデル」という単純化されたイメージに疑問を投げかけます。
選挙の分析を通じて、アフリカにおける民主主義の可能性と脆弱性を考察する本書の姿勢は、ステレオタイプを排した真摯な地域研究の姿勢を示しています。
日本とアフリカの関係:TICADの歩みと課題
本書は、日本人読者にとって身近な「日本とアフリカの関係」についても一章を割いています。
日本が主導する「アフリカ開発会議(TICAD)」は1993年に始まり、アフリカ支援の重要な枠組みとして機能してきました。
かつて日本はアフリカ援助のトップドナーでしたが、財政制約のなか「ODA冬の時代」を経験し、現在は新たなTICADの形を模索しています。
著者は、平和構築への貢献や自衛隊派遣の経緯も踏まえながら、日本がアフリカとどのような関係を築いていくべきかを考える材料を提供しています。
中国やロシアが存在感を増すなかで、日本ならではの関与のあり方を問い直す機会を、本書は与えてくれます。
おわりに:アフリカ理解の必携書として
本書の著者である遠藤貢氏は、東京大学大学院教授として長年アフリカ研究をリードしてきた第一人者です。
『崩壊国家と国際安全保障』で猪木正道賞を受賞するなど、学術的にも高く評価されてきた著者ならではの、深い知見と明晰な分析がこの新書には凝縮されています。
アフリカは、もはや遠い大陸ではありません。
資源・市場・安全保障のいずれの観点からも、私たちの生活と密接につながっています。
本書は、ニュースの断片的な情報だけでは見えてこないアフリカの全体像と行動原理を理解するための、信頼できる羅針盤となるでしょう。
国際情勢に関心をお持ちの方、アフリカビジネスに携わる方、そして世界の今を知りたいすべての方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。


