裏車掌です。

 

昨年から本(ほぼ新書)を紹介する

ブログになっております。

 

本の紹介記事は、

日曜日と木曜日の朝7時

更新となります。

 

よろしくお願いします。

 

はじめに――「右傾化」を読み解く手がかり

近年、日本政治における「右傾化」という言葉をよく耳にするようになりました。

 

参政党や日本保守党といった新興政党の躍進、国民民主党の支持拡大、そして保守色の強い政策への支持など、その兆候は随所に見られます。

 

しかし、こうした動きを支える「市民」の実像は、意外なほど知られていません。

 

松谷満氏の新著『「右派市民」と日本政治 愛国・排外・反リベラルの論理』は、約1万人規模の調査データをもとに、日本の「右派市民」の実態を多角的に分析した労作です。

 

 

 

 

ステレオタイプを覆す調査結果

本書の最大の特徴は、「右派市民」に対する既存のステレオタイプを、実証データによって次々と覆していく点にあります。

 

メディアやSNSでは、右派的な主張をする人々について「高齢者が中心」「経済的に恵まれない弱者男性」「情報リテラシーが低いネット右翼」といったイメージが流布しています。

 

しかし、松谷氏の調査からは、これらが必ずしも事実ではないことが明らかになります。

 

 

右派市民は決して均質な集団ではなく、その属性や動機は多様です。

 

本書では彼らを4つのタイプに分類し、それぞれの特徴を丁寧に描き出しています。

 

排外主義的な傾向を持つ人は全体の1割超にのぼる一方で、「極右」と呼べる層はわずか0.2%に過ぎないという数字は、問題の所在を冷静に見極めるうえで重要な知見といえるでしょう。

 

 

 

「右」と「保守」の違いを問い直す

第1章では、そもそも「右派」とは何かという根本的な問いに取り組んでいます。

 

日常会話では「右派」と「保守」がほぼ同義で使われることが多いですが、松谷氏はこの両者を明確に区別します。

 

「右」は過去志向、「左」は未来志向という軸で整理しつつ、選択的夫婦別姓や同性婚への反対論理など、具体的な政策イシューを通じて右派的思考の構造を解き明かしていきます。

 

 

興味深いのは、「保守」を自認している人が意外に少ないという調査結果です。

 

自らを保守と明確に位置づけず、むしろ「普通の日本人」として愛国的・排外的な主張を展開する層の存在が浮かび上がってきます。

 

 

 

右派市民の社会的属性を読み解く

第3章では、ジェンダー、世代、学歴、収入、職業、メディア利用といった多様な変数から、右派市民の社会的プロファイルを分析しています。

 

ここで明らかになるのは、「もっとも右派から遠いのは若年大卒女性」という傾向です。

 

一方で、経営者層にナショナリズムへの傾倒が見られる点など、従来あまり注目されてこなかった知見も提示されています。

 

 

また、政治思想とメンタルヘルスの関連についても言及されており、心理学的なアプローチを取り入れた分析は、本書の学際的な広がりを示しています。

 

 

 

 

「安倍信者」という虚像

第4章は、右派市民の投票行動に焦点を当てています。

 

しばしば「岩盤保守層」や「安倍信者」と呼ばれる人々の存在が語られますが、実態はより複雑です。

 

排外主義的な傾向を持つ層のなかにも「安倍嫌い」が存在するなど、右派市民と特定の政治家・政党との関係は一枚岩ではありません。

 

 

特に注目すべきは、近年の「自民離れ」の受け皿として国民民主党や参政党が機能しているという分析です。

 

従来の保守政党では満たされないニーズを持つ層が、新たな選択肢を求めて流動化している現状が浮き彫りになります。

 

 

 

ポピュリズムの新潮流

第5章では、視野を広げて右派ポピュリズムの国内外の動向を論じています。

 

河村たかし名古屋市政の検証から、石丸伸二現象、斎藤元彦兵庫県知事の事例、さらにはトランプ政権や欧州の右派ポピュリズムまで、幅広い事例を取り上げています。

 

 

松谷氏は「ポピュリスト=悪」という単純な図式を退け、反エリート感情に基づく「普通の人々」の政治参加という側面にも目を向けます。

 

この視座は、分極化が進む現代社会において対話の糸口を探るうえで不可欠なものでしょう。

 

 

 

おわりに――共存と対話の可能性を求めて

本書を貫くのは、「極端な人」を遠い存在として切り捨てるのではなく、「あなたの隣にいる」存在として理解しようとする姿勢です。

 

データに基づく冷静な分析でありながら、分断を乗り越えるための処方箋を模索する著者の問題意識が随所に感じられます。

 

 

右派市民の主張に賛同するかどうかにかかわらず、現代日本政治を理解するうえで必読の一冊といえるでしょう。

 

感情的な批判や安易なレッテル貼りを超えて、民主主義社会における多様な声に向き合うための、確かな足場を提供してくれる一冊です。