裏車掌です。
本(ほぼ新書)を紹介する記事を
中心にブログの更新を続けています。
本の紹介記事は、
主に日曜日と木曜日の朝7時に
更新となっております。
本年もよろしくお願いします
はじめに:人生の中盤で立ち止まるあなたへ
人生の折り返し地点を過ぎた頃、ふと「これからどう生きていこうか」と立ち止まってしまうことはありませんか。
仕事、家族、健康、そして自分自身の生き方について、漠然とした不安を抱えながらも、日々の忙しさに流されてしまう。
そんな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本書『自省のすすめ ――ひとりで考えるレッスン』は、アドラー心理学の第一人者として知られる岸見一郎氏が、
マルクス・アウレリウスをはじめとする哲学者たちの知恵を手がかりに、「ひとりで考える」ことの大切さと具体的な方法を説いた一冊です。
ただ悩むのではなく、自分自身と向き合い、よりよく生きるための術を「考え切る」。
そのためのレッスンが、ここに詰まっています。
なぜ私たちは「考えること」から逃げてしまうのか
本書の冒頭で、岸見氏は私たちが「考えること」から逃げてしまう心理を鋭く分析しています。
深淵を覗き込むような恐ろしさを感じるからこそ、私たちは考えることを避けてしまうのです。
興味深いのは、「悩む」ことと「考える」ことの違いについての指摘です。
悩んでいるように見えて、実は「解決したくないから悩んでいる」という場合があると岸見氏は述べています。
悩み続けることで決断を先延ばしにし、自分で責任を取ることから逃れようとしている。
あるいは、共同体への所属感を得るために、あえて考えないという選択をしている場合もあるのです。
しかし、考えないことの結末は、最終的にすべて自分自身に降りかかってきます。
だからこそ、緊急性がなくても考える習慣を身につけることが大切なのです。
「悩む」ではなく「考える」ことの意味
本書の核心部分では、「悩む」ことと「考える」ことの本質的な違いが明らかにされています。
悩むとは、答えの出ない問いの周りをぐるぐると回り続けること。
一方、考えるとは、たとえ答えがすぐに見つからなくても、粘り強く問いに向き合い続けることです。
岸見氏は「知らないことを知る」というソクラテス的な態度の重要性を強調しています。
自分が何を考えていないのかを知ること、自分に責任があるということの本当の意味を理解すること。
そして、他者の意見をそのまま受け入れるのではなく、自分自身で吟味すること。これらが「考える」という営みの基本となります。
特に印象的なのは、「思考のアウトソーシングをしない」という指摘です。
インターネットやSNSが発達した現代において、私たちは他者の意見に安易に依存しがちです。
しかし、自分の人生について考えることは、誰にも代わってもらえない作業なのです。
自己内対話という方法
では、具体的にどのように考えればよいのでしょうか。岸見氏が提案するのは「自己内対話」という方法です。
これは、物思いに耽ることとは異なります。
自分自身と対話するように、問いかけ、答え、また問いかけるという粘り強い作業です。
この自己内対話を深めるために重要なのが、「ロゴスに移す」「ロゴスを与える」「ロゴスで捉える」という過程です。
漠然とした思いや感情を言葉にすることで、初めて自分が何を考えているのかが明確になるのです。
仮説を立て、それを検証し、事実をつかんでいく。
この対話的なプロセスを通じて、私たちは自分自身をより深く理解することができます。
自分を知り、他者を理解する
本書では、自己理解と他者理解の両面について丁寧に論じられています。
岸見氏によれば、自分のことほどわからないものはありません。
自分の言動の「なぜ」を問うこと、特にその「目的」を考えることが重要です。
感情にも目的があるという指摘は、アドラー心理学の知見を踏まえたものでしょう。
怒りや悲しみといった感情は、単なる反応ではなく、何らかの目的を持って自分自身が選択しているものなのです。
この視点を持つことで、自分の心の動きをより客観的に見ることができるようになります。
他者理解においては、「謙虚さ」がキーワードとなります。
他者と自分は違うことを認め、共感と「翻訳」を通じて相手を理解しようとする姿勢が大切です。
また、「課題の分離」という概念を用いて、対人関係における適切な距離感についても考察されています。
世界と人生を変える力
本書の後半では、より広い視野から人生と世界について考えることの意味が論じられています。
世界で起きていることで、自分に無関係なことはない。
この認識に立つことで、私たちの思考はより深く、より広がりを持ったものになります。
岸見氏は、人生を悲観的に見ないこと、しかし同時に現実を直視することの両方の重要性を説いています。
理想を持つことが世界と人生を変える原動力となりますが、それは現実逃避とは異なります。
「される」側の視点から考えること、自分を世界の中心に置かないこと。
これらの姿勢が、正しく考えるための基盤となるのです。
読むこと・書くことの意義
考えるための具体的な方法として、本書では「読むこと」と「書くこと」の意義も取り上げられています。
本を読むことは、考えるための「抵抗」となります。他者の思考に触れることで、自分の考えが鍛えられ、深められていくのです。
また、書くことによって、自分でも気づかなかったことがわかるようになります。
考えを言語化する作業は、思考を明確にし、整理するために欠かせないプロセスです。
自分の思いを書く、忘れないために書く。こうした実践が、自省をより実りあるものにしてくれるでしょう。
おわりに:今ここを生きるために
本書の最終章では、変化の中で生き抜くことについて語られています。
すべてのものは変化します。対人関係も変化します。その中で、今を変え、今に意識を向けることの大切さが説かれています。
病気や老いといった避けられない現実に対しても、「生きることに価値がある」「生は絶対の善である」という力強いメッセージが示されています。
そして、哲学が私たちを守ってくれるのだと。
「私は私の人生を肯定する」。
この宣言から始まる本書は、人生の中盤戦を迎えた読者に、静かな勇気を与えてくれる一冊です。
これまでもこれからも、私は私のままで生きていく。そのために必要な「考える力」を、本書を通じてぜひ手に入れていただければと思います。


