我が家のレーベン(ラブラドールレトリーバー 3歳 男子)のアジリティ競技中の吠えがひどく、スピードロスや精度の低下を招いているというお話は、以前、このコラムで書きました。2歳を過ぎた頃から徐々にエスカレートしていったのですが、この吠えの問題はアジリティ競技上のみではなく、日常生活でも同時に起こってきていました。アウトドア旅行に出かけて行った先での過度の興奮からの激しい吠え、自分だけをかまって欲しいという要求の吠えなどなど。それはそれは大きな声で絶えることなく吠え続けていました。叱っても褒めても治ることはなく、徐々にエスカレートしていきました。

なぜ、このような事態になったのか。

 先に亡くした我が愛犬 リーベ(享年6歳半 黒ラブラドールレトリーバー)との経験が強く影響しています。リーベは、その日まで元気に走り回っていたのに、ある日突然、腸閉塞で急逝しました。病院に入院させる時に一緒に帰りたそうに見送るリーベの顔は脳裏に焼き付いています。わがままを押し殺し、こちらの意図を汲んで我慢したのでしょう。

 その後にリーベの魂を引き継ぐように我が家にやってきてくれたレーベン。

 先の経験から、私自身がレーベンを手元から離すのが不安で、常に一緒にいました。お買い物に行くときも、実家の介護に行くときも、常に車で一緒に行きました。そして普段の生活も、ちょっと猫可愛がりしすぎて、私達がレーベンにどうして欲しいと思っているのかを考えさせるのではなく、レーベンがして欲しいと思っていることを先回りしてこちらが提供してしまっていました。

 幼い頃はそれで大きな問題はありませんでした。しかし、大人へと成長し、兄ちゃん達や周囲のワンちゃん達への対抗意識や、パパ・ママ(特にママ)への依存心や独占欲が強くなってくると、過度の自己主張をし始め、それが叶わなかったら吠えて望みを叶えようとするようになってしまいました。幼い頃、望みが叶わない経験をしなかったレーベンは「叶わない望みはない」と信じているようでした。

 しかし、これでは社会生活ができません。私達がいぬの幼稚園を経営し、レーベンもお預かりワンちゃん達と一緒に過ごしてもらうためには、集団生活の場で待つ事も覚えてもらわないといけません。私の立場上、幼稚園ではレーベン達ではなく、他のお預かりワンちゃん達の様子を見るなどしないといけません。レーベンには「ここではそういうものなんだ。でも、待っていれば自分もちゃんとかまって貰えるし遊んでもらえるのだ」と理解してもらわないといけません。でも、どうやったら分かってくれるのか・・・。

 

↑我が家に来て1週間目のレーベン。ジャックラッセルのフライハイトよりちっちゃい♡ この頃から満面の笑みです↑

 

 バウバウには園長を始め、犬の訓練士・トレーナーは揃っています。彼らに訓練を習うことは出来るのですが、それではバウバウとしての成長が止まってしまうという考えのもと、我が愛犬の訓練はあえて外の訓練士さんにお願いしよう。そうして当園の新井園長・小川訓練士の恩師である垪和(はが)訓練士に習うことになりました。

 この垪和先生はバリバリの訓練士さんで、以前は、チョークチェーンの利用もし、強制的に形を教える訓練をされていました。しかし、垪和先生曰く「この訓練はある一部のヒトには出来るけど、一般家庭犬の飼い主さんには難しいのだろうと限界を感じた」と、現在の訓練方法へ移行されたそうです。その訓練の中身とは「犬に考えさえるトレーニング」です。

(参照 https://ameblo.jp/ph-wauwau/entry-12300588784.html

垪和先生と、今困っていることと将来の目標を話しあい、以下のトレーニングを行うこととなりました。

 

〇クリッカートレーニング

このトレーニングを通じて、こちらが何を望んでいるのかを考えてもらいます。

〇吠えても何も良いことは起こらない。では、どうしたらいいのだろう

と考えてもらう環境を設定します。

 

 この2つのトレーニングをバラバラの時期に行うのではなく、同時に行うことに意味があります。クリッカートレーニングを行うことで「自ら考えて行動を選ぶ」という基礎をつくり、そこに実生活上において「こちらが何を望んでいるのか」を考えてもらうのです。

具体的なトレーニングの内容です。

<1>クリッカートレーニング。

こちらが望んでいる行動を取った時のみ、その瞬間にクリッカーを「カチッ」と鳴らし、おやつというご褒美が出てくるものです。「こちらが望んでいること」を言葉で指示するのではないところが、垪和先生のクリッカートレーニングの特徴です。

今回は「お盆をひっくり返した物に両前足を乗せたままクルクル回る」という芸当を題材にします。

 

1,まずは大前提にクリッカーの音を好きになってもらう必要があります。クリッカーの「カチっ」という音がなると良い事が起こる=おやつが出てくると覚えてもらいます。何をしててもいいので、突然「カチッ」と鳴らしておやつをあげます。何度も繰り返していると「カチっ」という音に敏感になり、この音が好きになります。

 

2,音を覚えたら今度はアイコンタクトの練習です。偶然でいいので、目が合った瞬間に「カチっ」と鳴らしておやつを出します。繰り返すとママの目を見たら「カチっ」となっておやつが貰えるんだと理解します。

 

↑満面の笑みでレーベンはヒトの目を見ます↑

 

3,アイコンタクトが出来るようになると、次に、ヒトはワンちゃんから視線をはずし、「ターゲット(この場合はお盆をひっくり返したもの)」に視線を落とし続けます。ワンちゃんは「???」です。さっきまでママの目を見つめれば正解だったのに、なぜかそれでは「カチっ」と鳴らないのです。アイコンタクトが出来るようになっているワンちゃんは、ヒトの視線を追うことができるので、ママが見つめている先に何かがあるのかも?と視線の先を見たり、視線の方向に動いたりします。その瞬間です!その瞬間を逃さずに「それ、正解!!」と「カチっ」と鳴らしターゲットの所からご褒美を出します。これを繰り返すと「ターゲット」=「お盆」と認識し、ママが視線をターゲットに落とすとそこに鼻先を近づけるようになります。

 

↑ターゲットを認識しないうちは、いろいろ考えて色んな事を試してみます。「伏せたらいいのかなぁ?」↑

 

↑偶然、ターゲットに向かって動きました!その瞬間を逃してはなりません。↑

「それ、正解☆☆☆」とクリッカーを使って伝えるのです。

 

4,ターゲットが認識出来たら、次は前足を載せるに正解を変えます。また、今までと同じことをしているのに「カチっ」と鳴らなくなったワンちゃんは「???」と考え始めます。座ってみたり、伏せてみたりなどなど色んな行動を試します。偶然、前足が乗ったらその瞬間を逃さず「それ正解☆」とクリッカーを「カチっ」と鳴らし褒めながらおやつが出てきます。

 

↑今度はターゲットの上で伏せてみました。でも、違うんだなぁ〜。もっと考えてみて。↑

 

↑前足が乗りました!「それそれ〜♪」とその瞬間に「カチっ」でたくさん褒めながらご褒美です。↑

 

5,このように更にいくつかの段階を踏んでいくと、お盆の上に両前足を乗せたままクルクルと回れるようになります。目標だった行動が完成したら、そこにコマンド(声での号令)をつけてかぶせて行き、最後はコマンドでその行動がとれるようになります。

 

↑レーベンはお盆の上で何周でも回れます(^J^)↑

 

 このようにクリッカートレーニングは、「ママは僕に何をして欲しいと思っているんだろう。」と自ら考え行動を選択できるようになるトレーニングです。

 このトレーニングは、クリッカーがなったら楽しい事があるというものです。叱るのでも、強制的にさせるのでもなく、ワンちゃんが自ら考えて出した行動に対して「それを望んでいたんだよ」というシグナルをこちらが出すだけです。そのシグナルがクリッカーの「カチっ」という音です。このトレーニングを繰り返すと、ワンちゃんはどうやったらクリッカーを鳴らせるんだろうと考え始めます。継続していくとワンちゃんにとっては、クリッカーを鳴らすというゲームになってきます。これを飼い主さんとすることで、飼い主さんと一緒に楽しむゲームになってきます。

 つまり、クリッカーを鳴らすゲームを通じてワンちゃんに自らどのような行動を取ればいいのかを考えて選択することを教えていくのです。

 この「犬に考えてもらう」クリッカートレーニングと同時に、実生活では「吠えても前に進まない」「興奮した状態では楽しい事は起こらない」「じゃあどうしたらいいの?」ということを考えさせることにしました。

 こちらのトレーニングは楽しいことではなく、それはそれは光の見えない時期が続いた、レーベンと私の戦いにも似たトレーニングでした。

(続く)

(執筆byりふられママ)