8mm自主映画『みちのり』の朧げな思い出シリーズです。

 

 

映画中盤。

有休を取った「宏明」「いのうえモータース」

「吉沢」を訪ねます。

そのときの会話。

 

 

吉沢「あれ? どうしたんだ、こんな時間に。休みか?」

宏明「えぇ、ちょっと墓参りに行ってきたんですよ」

吉沢「あぁ、そうか。今日はご両親が食中毒で亡くなった日だったっけな」

宏明「む。吉沢さん。交通事故ですよ交通事故」

吉沢「わかってるよ、冗談だよ、悪かったよ」

宏明「もう…」

吉沢「で、ここへは何しに?」

 

う~ん。なんかモヤモヤする…。

 

 

 

元々決定稿の台本でのこの部分は

 

吉沢「あれ? どうしたんだ、宏明。今日、休みか?」

宏明「いえ。ちょっと墓参りに行ってきたんです」

吉沢「あ、そうか。今日は── そうだったなぁ…」

宏明「ええ」

間。

吉沢「で、ここへは何しにきたんだ?」

 

てな感じでした。


確かに、最初の段階では

二人の距離は若干遠く、雰囲気は重く、

「宏明」のご両親の亡くなられた理由もわかりません。

 

で、次に直したのが

 

吉沢「あれ? どうしたんだ、こんな時間に。休みか?」

宏明「ええ、ちょっと墓参りに行ってきたんですよ」

吉沢「あぁ、そうか。今日はご両親が交通事故で亡くなった日だったっけな」

宏明「ええ」

間。

吉沢「で、ここへは何しに?」

 

まぁ、決定稿よりは

「宏明」のご両親の亡くなられた理由は明確になり

二人の距離は若干近く感じられるものの

暗く重い雰囲気はぬぐえません。

しかもちょっと説明ゼリフです。

 

で、最終的に“絵コンテ”でセリフが変わって

現在のもの

 

吉沢「あれ? どうしたんだ、こんな時間に。休みか?」

宏明「えぇ、ちょっと墓参りに行ってきたんですよ」

吉沢「あぁ、そうか。今日はご両親が食中毒で亡くなった日だったっけな」

宏明「む。吉沢さん。交通事故ですよ交通事故」

吉沢「わかってるよ、冗談だよ、悪かったよ」

宏明「もう…」

吉沢「で、ここへは何しに?」

 

になったわけです。

 

 

この修正したセリフには

短い言葉で簡潔に「宏明」の状況を説明し

「宏明」「吉沢」

「宏明」のご両親の死を冗談に出来るくらい親しい関係で

そんな冗談を許すくらい「宏明」はご両親の死を乗り越えてる

二人のそんな関係を表現できないか

 

と思って書き直したわけですが、

現場でも

「この冗談ってちょっと不謹慎だよね」

と言う意見は当然ありました。

 

でも結局は、「よし」 としてしまいました。

 

 

 

これを書いたときの僕は人生経験が浅く

身近な人の死さえ経験したことが無かったので

その不謹慎さを理解していなかったのです。

 

歳を重ねて今観ると

このセリフのやり取りがちょっと不愉快。

 

なにがあっても、どんな関係でも、相手が誰であっても、

人の死を笑いに変えて茶化すのは

絶対にやっちゃいけないことです。

 

 

このシーンを観て不快に感じる方もいらっしゃると思います。

 

でも

「吉沢」やセリフを言った山岡くんが悪いのではありません。

未熟さゆえにこんなセリフを書いてしまった

戸辺千尋が悪いのです。

 

 

だから、

僕のことはキライでも、

「吉沢」のことはキライにならないでください!

 

©文藝春秋

 

(コイツ、絶対反省してないよ…)

 

 

 

 

 

当時も今もふざけているわけじゃありません。

やしの木 Peppermint Film Workers since 1984 やしの木

は試行錯誤の連続で、いっぱい失敗して

それでも可能な限りいいものを作ろうと頑張っていたんです。