KISS+06 出会い | 全てデフォルトで~pfrs~ピエフアレスのブログ
人混みをかき分けて見つけたエリコと目が合った。
暑さと湿気で重い空気、思い切り息を吸い込み額の汗を拭った。
「何でこんな所にいるの?」
『宵山って言うんでしょ?すごい人だよね。』
「いつ来たの?ひとり?」
『今日の昼頃、京都に着いたの。嵐山に叔母がいて、寄ってから来たんだけど・・』
「来るなら来るって教えてくれてもいいんじゃない?」
『今日の朝起きるまで来ようと思ってなかったもん。』
「なんだよ、それ・・」

『あのさ、久し振りに会ったのに何か嬉しそうじゃないよね・・』
僕は持っていたミネラルウォーターを飲み干し、拗ねたようなエリコを見た。
「あのな、予期しない出来事でちょっと混乱してるだけ。」
『結構本番に強いタイプかなと思ってたんだけど。バスケ部の時も、ほら。』
エリコが辿った記憶はきっと高校3年の時のインターハイ県予選の決勝の場面だ。
残り5分で点差は9点。諦めかけた時に立て続けに3本、3Pシュートを決めた。
結局2点差で負けてしまったけれどそのシュートの感覚だけがずっと手の平に
心地よく残っていたのを今でも思い出せる。

「ちょっと順序立てて聞きたいんだけど、いい?」
『まあ、いいじゃない。私も初めて見るお祭りだしブラブラ歩こう、ね?』
目の前には月鉾が立っていた。
目を凝らすとその絢爛豪華な装飾に圧倒される。
「月」と書かれた駒形提灯にも灯が入る。
周りを取り囲む人々の波。
奏でられる祇園囃子。「ちまき買うてんか~、厄除けのちまき買うてんか~」
ひとりでたくさんのちまきを買い、袋を一杯にした老婦人がいる。
缶ビールを片手に鉾に掛けられた絨毯を説明している老人がいる。
きっと数百年前と変わらない風景。時間が醸成した空気が街を流れている。

『あのさ、嵐山の叔母さんに長刀鉾でちまきを買ってきてって言われたんだけど』
「長刀鉾ならさっき写メ撮ろうとしてたんだけど。烏丸の方だし行こうか?」
僕は踵を返すと
『ちょっと、迷子になったらどうするのよ・・』
エリコは突然歩き出した僕に不満そうに立っている。
僕は仕方なくエリコの手首をつかんだ。
『下駄だし、ゆっくり歩いてよね。』
エリコは手首に絡んだ僕の手をほどき左手を握った。

『ねえ、何で京都の大学にしたの?』
なかなか前に進めない、話すきっかけも無く黙っていた僕に問い掛けてきた。
「何故って・・何故だろう?東京で進学するつもりは全くなかったなあ・・」
『私は京都に来たかったんだ。覚えてる?』
エリコが僕の顔を覗き込んだ。
『中学の修学旅行で清水寺のおみやげ屋さんで私がかんざしを選んでいた時に
「こっちの方が舞妓さんみたいで似合うんじゃない?」って永井君が勧めてくれたの』
僕の記憶からは抹消されている。
『でもそのかんざしが7000円くらいして買えなかったのね。でもそういう悔しさ
 って忘れられないのよ。いつか京都に買いに行く、ってずっと思ってたんだ。』
「それで京都の大学受けたの?」
『清水寺にもちょっと近かったしね、軽い気持ちで受けたんだけどダメ。もうちょっと
 違う動機があればきっと結果は違ってたかもしれないけど・・』
「また来年受験すればいいじゃん、って訳にいかないか」
『無理無理。お父さんに何言われるかわからないもん。出て行け!なら都合いいけど』
僕らは笑った。
途中配られていた団扇を2枚貰いエリコに渡した。

「自分が全く馴染みのない場所に行きたかったんだと思う。」
函谷鉾の横を通り、ちまきを売るテントの人集りを横目に僕はつぶやいた。
「進学先決める時に先生から「推薦でいけるぞ」って言われてた。いつまでも受験勉強
 するのも嫌だったし六大学とか勧められてたけどたまたまなんかのテレビで祇園祭を
 していて特集していて・・次の日「京都にします!」って宣言してた。」
『結構適当に決めたんだね。』
「結果的にはね。でもこっちに来てよかったよ。不思議なくらい静かに生活してる。」
『で、感慨深いものがある?祇園祭』
エリコは左手で帯留めの所に団扇を挟みながら僕に向かって笑った。
「こんな出会いがあるとは思ってなかったけどね。」
僕も笑った。
ふと視線に入ったエリコの後れ毛に瞬間ドキッとした。