僕の音楽人生、ルーツ再訪の旅の第1回目です。
ただの野球少年が突然、洋楽にのめりこむキッカケになったのが今日の
主役、KISSでございます。僕ら世代の典型ですね。かの有名なNHKの
「ヤングミュージックショー」が放送された頃のことかなあ。
登校仲間の一人のチューパンが、学校にシングル・レコードを持ってきて、
毎朝、授業の始まる前の教室で(当時はなぜか各教室にステレオ・セットが
装備されていましたよ。日野市だけかな?)大音量で音楽をかけるのが日課
になっていました。最初はたしか「ビューティフル・サンデー」だった気がする。
で、いつの間にかロックになり、「ハイウェイスター」とか「紫の炎」とか、彼が
お兄ちゃんから借りてきたものを繰り返し聴くようになりました。
しまいには「KISSごっこ」が始まってね。「今日は俺ジーン!」「じゃあ俺
エース!」みたいな、キャラの争奪戦の後、掃除ロッカーからほうきとバケツ
を出してきて、エアギターとエアドラム!そんな小学校6年生の風景...
昭和の香りがぷんぷんしますね。まだまだ「舶来文化」に対する憧れと畏敬
の念があふれていた時代です。
はじめて買ったアルバムもKISSの「地獄の軍団」でした。「地獄の遺産」とか
「狂気の叫び」とか「雷神」とか色んなタイプの曲が入ってましたね...
翻訳文化全盛の頃です。今なら"destroyer" " great expectation"もしくは
カタカナ表記するのでしょうが、当時のレコード会社の人々の、この音楽を
日本人にわかりやすく伝えたい!というある種のおっせかいな親切心に
よって、とにかく原題に加えて(奇妙な)邦題がいちいち付いていました。
「大きな声で叫べ!( shout it out loud ) 」もなぜか、KISS販売戦略的には
「狂気の叫び」に変わります。ムンクか!「今夜も可愛い子ちゃん呼んで
盛り上がろうぜ!パーティー、オールナイト!」みたいな、ミミズ並みの
自意識しか持ち合わせていない能天気なアメリカ人の歌なのに...
KISSだけでなくハードロックの邦題には、特定の用語、というか漢字が多用
されます。「地獄」「灼熱」「悪魔」「炎」「狂気」「鋼鉄」「高速」...原題と邦題
の微妙なズレ(時には完全な誤訳)の一覧を作って楽しむ、そんな内容が
満載なHPとかあるんでしょうね。(そういえばビートルズのNorwegian Wood
も、本当は「ノルウェー製の家具」なのに、誤訳で「ノルウェーの森」としてしま
ったけど、かえってその方が文学的な香りを醸し出し、村上春樹につながっ
たのでは?と、当時の東芝EMIのディレクターが最近語っていましたよ。)
「地獄の軍団」のライナーノーツにもめちゃくちゃ影響を受けました。
いわゆる批評言語というものに出会ったのもこの時がはじめてだっだ気が
します。現在、株式会社「ロッキンオン」社長の渋谷陽一大先生の、高尚で
文学的な批評文、何度も繰り返し読んだのでおさなごころに深く刻まれてい
ます。
「これまでのキッスの作品が国産車のスポーツカーだとするなら、今回の
アルバムはランボルギーニ級のスーパーカーだ!!」
前年、小学校5年生の時に「スーパーカー・ブーム」に便乗、「晴海のモータ
ーショー」にまで出かけて行った僕には、ヒジョーに共感を覚える分かり
やすいアナロジーでしたよ。
さて、問題の「ヤング・ミュージック・ショー」の映像です。
ステージ上の熱狂をよそに観客のみなさんきちんと座っています。これは
オープニングの爆発音にビビって腰を抜かしているのではなく、当時は
法律で禁止されていたんですね。音楽にあわせて立ち上がったり踊ったり
することが。「1曲目から観客が総立ち」がライブの定番になっている現代
日本のモラル低下が嘆かわしいです!
警備のバイト君も中腰で、絶対にステージ方面を向きません。与えられた
仕事はきっちりとこなす、そういう生真面目な勤労精神が戦後の日本の
経済発展を支えたのですね。いちいち決めポーズ・かっこつけアクション
全開のKISSの面々と観客の温度差が非常に興味深い映像です。
http://jp.youtube.com/watch?v=HdeSqZbY8LI&feature=related
意外と火力が弱いなあ。