(3)居住者条項の判定
UNモデル租税条約については、かねてより明文の曖昧さにより解釈に疑義が出るとして批判の多いところであるが、本条約でも、「現に他方の締約国の居住者であるもの又はその滞在の直前に他方の締約国の居住者であったもの」と規定されているのみで、一義的・明確に規定されてはいない。
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次に「その滞在の直前に他方の締約国の居住者であったもの」との要件は、条約という性質から本契約締結相手国の居住者だったもの限定しようと考えるのが妥当である。
居住者と規定する理由は、「国籍」で課税するという政治的帰属による判定から、国境を越えた人的移動の増加により「居住者」という概念である経済的な帰属を課税の対象にし、現在では大半の国に設けられた課税概念である。すなわち、この規定の適用以前にその者の課税・経済実態が、条約締結相手国にあることにより、課税の減免を図るという趣旨であると考えられる。
すなわち、締結相手国の居住者であった留学生が、直接に日本のある大学に留学するならば,これに該当し、大学等を転校をすれば適用しないというものではない。また、一度語学留学をして,専門学校に入り、その後大学に入学する場合も少なくない。この場合には、専門学校の期間についてはこの免税条項の規定は働かないというのが、現在の一般の考え方であるが、本来の前記趣旨から言えば問題無いとはいえない。
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我が国においては、自大学内に語学スクールを開設しているところは少ない。このため、留学生は、語学研修期間として他の教育機関を利用することが多いと思われる。それを除外するという趣旨ならば、大半の留学生は本条約の適用が不可能となり、我が国の教育を受けるために来日した留学生の生活の糧等に資するためのアルバイト程度の収入については、免税条項を設けて課税しないとした趣旨に反することになる。
結果として、本条約の判定において、入学前に居住者かどうかに関わると狭く解するならば、大学を転校した場合ばかりでなく、大学から、別の大学の大学院への進級もこの規定の適用がないことになってしまい、趣旨を逸脱する。
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・・契約締結国の居住者であったものが、別の国に出国し、その国の居住者となり、その後我が国に入国した場合には、この規定の適用の可否が問題となる。この場合には、適用は無いと考えられる。それは、本条約の趣旨が、条約締結相手国の居住者であったものについて免除規定を設けているのは、その留学生の本来の課税国が条約締結相手国、すなわちその者の経済活動の本拠地であることが条約締結二国間の取り決めとしてなされるものであり、国籍がどうであれ、経済基盤が条約当事者以外の他国の居住者であった場合にまで本条約を適用する必要がないと解されるからである。
以上のように,本事案は、転校という段階はあったものの、他の国からの入国ではなく、本来の経済基盤たる課税国は、入国前の条約締結国である中国であることは、明らかであり本条約の規定の適用を受けるべき事例に該当すると考える・・
