子供の頃、父に連れられて、

よく映画を観にいきました。

当時、父は仕事が忙しく、

平日は、話をすることも、

顔を合わすことすら、

なかったぐらいでした。


そんな父は、

何故か、休みになると、

決まって幼い自分を、

映画を観に連れて行ってくれたのです。


正直私は父が苦手でした。

隣に住んでいる自転車屋のおじさんのほうが、

まだ、気軽になんでも話すことが、

できたぐらいです。

実の父と何を話せばいいのか解からず、

いつも気まずい空気を感じていました。


観た映画はなんだったのかは、

鮮明におぼえています。

ただ、映画館に行く過程で父と、

どんなやり取りがあったのか、

どうしても思い出せません。


そんな父と観たはずの映画です。




「蛇皮の服を着た男」

マーロンブランド   主演
シドニールメット   監督
テネシーウイリアムズ 作(地獄のオルフェ)


子供ながらにショックをうけました。

主演のマーロンブランドは俳優ではなく、

本当に、蛇皮の服を着た男

そのものだと思っていたんです。


父は、子供が好みそうな映画は一つも、

見せてはくれませんでした。

私はただ、父に連れられるまま、

父の選んだ作品を、ポカンと口を開けたまま、

毎回食い入るように、

観ていたようです。



父はなぜ、私を映画を観に連れ歩いたんだろう?




映画を観終わって、外に出た時、

街の風景が、もう暗くなっている。

そのとき感じる、

ちょっと寂しいような、

取り残されたような、

時間の感覚が、ずれちゃった、

浮遊感がとても好きでした。


今でも映画を観終わった時、

ふと、父のことを想います。