「空気中に高濃度の放射性物質」「水道水に基準値以上の放射性物質」「海水から基準値の何百万倍の放射性物質」……。原発事故関連の異常な観測値は、地震発生から3週間がたっても次々と公表され続けている。
東北地方のある病院に勤める放射線科医師のY氏は、すでに家族ともども西日本へ避難したという。Y氏が語る。
「確かに、原発から放出される放射線そのものは20kmも離れれば届く量は限られる。でも、一方で放射性物質はドンドンと風に乗って広がる。これが怖いんだ」
そして、特に注視しているのが飛散シーズン真っ盛りの「スギ花粉」だという。
「地震の前、花粉症の僕はすでに鼻水が止まらないほどだった。もし大量に飛び交う花粉が“被曝”していたら、20km圏外は安心だなんてとても言えないよ」(Y氏)
よりによって、今年のスギ花粉の飛散量は極めて多く、福島県は「福島杉」という建築材を産出する“スギどころ”。しかも、花粉は風に乗って時には 300km以上も飛んでいくという。となると、北は岩手県中部、西は新潟県全体、南は神奈川県小田原市あたりまで……と、東日本の大半が含まれてしまう!
原発問題に詳しいノンフィクション作家の広瀬隆氏は次のように警告する。
「にわか知識のアナウンサーや政府の御用学者の話だけを聞いていると大変なことになる。すでに空中に大量に飛び、こちらに近づいてきている放射性物質を知らずに体内に取り込んでしまう『体内被曝』は本当に怖いんです」
放射線を体表に浴びたり、放射性物質を含む雨が皮膚に付着する「外部被曝」よりも、汚染された水や粉塵を体内に入れるほうがずっと危険なのだ。広瀬氏が続ける。
「放射性物質との距離が近ければ近いほど、被曝量は2乗で増えていく。例えば、距離が1mから1mmになれば千×千=100万倍。肺に吸い込んで付着するなど1000分の1mmという状態なら、被曝量は1兆倍! しかも、体の表面についたものは振り払えばいいのですが、吸い込んでしまったら取り出しようがない」
体内被曝に詳しいイギリス・アルスター大学の分子生命科学者、クリス・バスビー教授も、イタリアのテレビ番組のインタビューで次のように話している。
「湾岸戦争で激戦地となったイラクのファルージャでは、原爆が投下された広島よりも高い率でがんや出生異常が起こっている。これは、多国籍軍が使用した劣化ウラン弾によって撒き散らされた放射性物質(ウラン)を体内に取り込んだためだと思われる。放射性物質による体内被曝が微量でもいかに危険であるかを顕著に示した実例だ」
雨は拭けば落ちる。水道水も飲まないという選択肢がある。しかし、呼吸によって誰もが体内に取り込む空気中に“被曝花粉”が漂っているとしたら……。
西日本のある原発に20年以上勤務した経験を持つベテラン技術者は、無念の思いを隠そうともせずこう語る。
「福島の皆さんには本当に申し訳ありません……。放出されてしまった放射性物質は、壊れた建屋から放水で漏れ出した可能性より、冷却水が沸騰して水蒸気とともに放出された可能性が高い。この観測が正しければ、冷却システムさえ回復すれば状況は一気に改善されるはずです」
現在観測されている放射性物質のうち、セシウム137は半減期は30年と長いが、特定部位に集まる性質がないため体内除去剤が効きやすい。むしろ、半減期が8日間と短いヨウ素131のほうが、高濃度で取り込むと甲状腺がんの危険性が高まるという。
つまり、最も危ないのは放射性物質の流失が止まってから8日後まで。それまでは花粉症でなくともなるべくマスクを着用し、風向きに注意しながら可能な限り体内に入れないよう心がけるしかない。
(取材・文/近兼拓史)
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