「お~い 開けてくれよ」
ドン ドン ドン
「起きろって」
ドン ドン
いつまで寝てるんだ あいつは
仕方なく自分のバッグの底の方から鍵を出す
持ってますよ
面倒だから 開けてほしかっただけだよ
ガチャ 扉を開く
ドスッ 荷物を置く
静かだな・・・・
いないのかな・・・・
あいつの狭い部屋の扉を開く
肉の塊があった
時間が止まってた
どのくらい過ぎたかな・・・・
笑っていたよ オレ
お前の 変わり果てた姿を見て
笑ってしまったよ オレ
お前 惨めだな
本当に 情けない奴だな
驚きはしたけど
意外じゃなかったよ
「あぁ きょう 逝くことにしたんだ」
それだけだ
わかっていたんだ オレ
だってお前 3日前から
何も食べなかったじゃない
時を止めた後に 部屋を汚したくなかったんだろ
本当は1ヶ月前にも試したんだろ
あの日 暑くもないのに全身に汗を流して 黙って帰ってきた
飛ぼうとしたんだろ
だから 遠からず この日が来るって
わかっていたんだ
お前 惨めだな
本当に 情けない奴だな
でも 意外じゃないんだ
お前は 面白い奴だったけど
なにをやるにも 遅いから
楽しいアイディアをたくさん持っているけど
自分では動けないから
世間の時間軸の速さに
いつか取り残されるって
わかっていたんだ オレ
わかっていたんだ オレ
この日が来るってね
もう 疲れたんだろう
時間を止めて 安らぎは得たかな
長い時間が過ぎて
お前の母親がやって来る
ただの肉の塊に向かって
何度も お前の名前を叫ぶ
犬でも呼ぶみたいに連呼する
あまりの騒音に 俺は
「もういいじゃないか あんたの子供は死んだんだよ」
そう呟く
俺の前に 殺意に満ちた 老女が立ちふさがる
「うちの子が こんな姿になったのは お前のせいだ」
大して力も残っていない 細い手の小さな拳が
俺を 殴る
そうかもね
あんたの子を 殺したのは俺かもね
でも あんたはそれに腹を立ててるんじゃない
自分の手を離れた我が子
その我が子を あんた以上に理解するオレ
それが悔しいだけなのさ
自分の子供を理解出来なかった
そんな自分自身が 悔しいのさ
お前の最後の姿を見て
オレ 笑っちゃったよ
お前 惨めだな
本当に 情けない奴だな
でもさ
俺も 死んだんだよ あの日
だから もう 俺の前に現れるなよ
わかってるだろ
ここに居るのは 抜け殻だって
だから もう 俺の前には・・・・
世間が 新生活の準備を始める頃
お前は 死んだ
俺も あの日に 死んだんだ