承前)ヘルマン・レヴィの墓を訪れたキリル・ペトレンコは、新たにデザインしたフランカ・カスナーの手を握って一言二言語った。彼女が柵の中で故人への手紙を朗読し終わって感情が昂っているところであった。何人かの取材者はその場にいたようだが、何時もの様にペトレンコからは取材出来ていない。恐らく演奏会に居たドラマテュルークのクラスティングの車で移動していたと思われるが、彼は写真には居ない。

制作者にペトレンコは何を言ったかと訊ねると、最初はどうもあまり気に入らなかったようだが、よかったと言って呉れたと笑ったと新聞にある。成程、私も演奏会の切符を売って貰った親仁に訊ねられたが、独特のものだと答えた ― ペトレンコは「完全武装だ」と語ったともあった。

中々評価が難しい。しかし、分かっていることはうろこ状の手作りの銅片が経年変化で緑青を吹いて来ることで、色合いがどんどんと暗くなって行くことだろうか。周りに敷き詰められた薄いシーファは音を立てる。そして柵によって守られる。中々微妙な色合いなのである。

地元では紆余曲折があった。ヒンデンブルクと現在は称されている道路をヘルマンレヴィと戻すことへの住民投票でも圧倒的に否決されていた。一連のヘルマン・レヴィ復権への活動の基本理念にはどうしても対反ユダヤ主義への意志がある。同時にその経緯から1936年の冬季オリムピックで開発の進んだナチ時代以降の街のあり方も問われることになっている。同プログラムがミュンヘンでも23日に再演されることになっているのだが、最初は発売時にも若干戸惑ったような反応が感じられた。それは周知がなされていないことと、同時に今回の復権への動きへの認知度によるものであったろう。

新聞報道されたことでミュンヘンの聴衆の認知も変わり、同時にペトレンコにしても墓参りまでするとなると、なにか少し違う風景が見えて来るか。少なくとも、プログラムにおけるマックス・ブルッフのコルニドライのユダヤ旋律、メンデルスゾーンのルイブラス序曲、アカデミー楽団で演奏されるジークフリート牧歌、そして故人と最も親しかったブラームスの悲劇的序曲、故人が再興したモーツァルトの歌劇からその編曲でのフィオルデリージの「岩の様に」とよく考え抜かれた特別のプログラムとなっていた。

練習は通常通りには行われていたようだが、まだこの組み合わせならば23日には磨かれた演奏が可能な筈で、音楽的にも更に期待される。しかしブラームスもカラヤン指揮よりもシャープな音響であると共にとても多層な音楽としていた座付楽団とペトレンコ指揮も見事であり、ドラマティックなソプラノを合わせた編曲モーツァルトも特筆すべきものだった。

舞台の下から現市長のおばさんが花束を渡して、しゃがんで耳を傾けるペトレンコの手を握り締めて離さなかった。(続く



参照:
Endlich angemessene Grabstätte für Garmisch-Partenkirchens Ehrenbürger Levi, Tanja Brinkmann, Merkur vom 2.7.2021
Späte Würdigung eines Vergessenen, Sabine Reithmaier, SZ vom 5.7.2021
0Grab von Dirigent Hermann Levi künstlerisch gestaltet: Geheilte Wunde, Robert Braunmüller, Abendzeitung vom 5.7.2021
華の女性を募集中 2021-06-18 | 雑感
小技ばかり長けても駄目 2019-02-18 | 文化一般