銀行に行くとカウンターは閉まっていた。町が静かだと思うと、カーニヴァルの火曜日であった。半ドンである。買いものはスーパーが開いていたので、静かな中を用が足せたが、パン屋でパンを取りに行くことは出来なかった。帰りについでに醸造所を覘く。

こちらも思い掛けなく週前半から店を開けるようになって、さらに2007年度産が店頭に並んでいた。昨日から売り始めたと言う。

ピノノワールを楽しんでいた英国人の二人組みをやり過ごす。いよいよ、2007年産のグーツヴァインから始める。途中、夫婦つれが入ってきていたので、旦那でなく奥様と試飲をご一緒する。

オイリーな匂いは、ヴァッヘンハイムからバート・デュルクハイム間に広がるケーニックスヴィンゲルト、フックスマンテル、マンデルガルテン、ルーギスガルテンなどが交じっているようだ。気になった苦味が昨日飲んだ安物のリッターヴァインと似ている。手摘みでもこのような味が出るとするとその原因は?

そうこう考えている内に、奥様は次のルッパーツベルク・リースリングを試して、甘いと仰る。それで、熟れたワインを持ってこさせる。私がこれから試そうと思う、ルッパーツブルクを片付けられてはいけない。もう一度もってこさせて、じっくりと香りを嗅ぐのだ。

香りも違うが味も違う。しかし、直前にご婦人に甘いと言われるとどうしても気になるのだ。「甘いといえば甘い」。確かに2007年産は、酸が丸い分、甘みを感じる傾向があるかも知れない。その分アルコール度も12.5度と高い。

奥様は、熟れた2005年産の古い葡萄から作ったリースリングを、お気に召されたようである。緊張して力んでワインを試すこちらの横顔を、恐らく口元を大きな目で睨まれる。そちらを向くと、まるで遠くを見ているかように焦点を変えられる。そうなるとどうしても気になってしまう。

「失礼ですが、甘いと仰いましたね。糖が多すぎますか?それとも、酸が弱いからバランスが悪いと思われるのでしょうか?」

「いえ、そうじゃないの。フルーティー過ぎると言っているの」

「なるほど、新しいワインですからね」

「ホラ、こちらのが好いわよ」と声を潜める。

それに対抗するかのように少し大きな声で、「分かります。新し過ぎるのと、熟れたのとは全く違いますからね。私もそちらを試してみます」ときっぱり。

すると奥様は、すこしウインク気味に「そうしなさい。こちらの方が好いわよ」とまた声を潜める。横にいた筈のご主人は完全に黒子状態である。

またまた声を上げて、「なにも 良 い ワインは、 新 し く な い と いけない訳ではないですからね」と敢然と言い放つ。

奥様は、「さ か な に は、 こ の ワ イ ン よ」といよいよコケットに仰るのだ。

こちらは最後まで相好を崩さずにいる。奥様は、帰りがけに背中を向けながら、ご主人よりも大きな声で間をおいて「アウフ、ヴィーダーゼン」と、わざわざこちらに張りのある大きな声でご挨拶なさる。

ご主人も小柄で少し老けて見えるが、彼女が特に後妻さんとは思われない。奥様に試飲をさせてワインを選ばせる、自らは運転を心がける、専門職風の恐らく開業医師風の穏やかそうなしかしどこか弱弱しい声のご主人である。奥様も元看護婦さんと言う雰囲気とは程遠い元「医者のお嬢さん」風である。

今後の発売日程など店の者に聞くと同時に、試飲台の上に出ている英国人が試したピノノワールを舐めて、自宅でじっくり試飲のために上の三本を購入する。二本目に飲んだルッパーツベルガーは、若々しくつとに素晴らしい。ライタープファードやホーヘブルクなどが含めれている。青林檎の味もあり香りもそしてふくよかだ。そしてなによりも果実風味に富んでいる。

当然のこと三本目の2005年産の熟れかけた味のあるグーツヴァインも忘れずに購入した。店のものに聞いた。

「後一年ぐらいは楽しめるかな」、「そりゃ、なんとか」

奥様のイニシャティヴで事が皆すんなりと進んだようである。昨日のローゼンモンタークの朝焼けは情念に満ちあふれていた。