ポーランドには、まだドイツ軍捕虜がいると言う。ナチの高官ではないが、戦争末期の空爆増えるベルリンのプロイセンの美術館からクラカウへと疎開した美術骨董品である。

ロシアとポーランドは、既に返却などの終わったウクライナや中央アジアの国々とは異なり、この点で強硬な姿勢を示し続けている。国際法上は1907年のハーグ条約での戦利品や略奪の禁止に反するとの原則で、東西の壁が開かれた後の1990年代から粘り強く交渉が続けられている。

特にポーランドの立場は、ドイツ軍がポーランドの文化財を故意に破壊したことを返却拒否の理由としていることから、返却要求されている文化財は人質となっている。

いかにも被害者国ポーランドらしい主張であるが、そのナチに破壊された文化財の内容に触れるとこれまた面倒な話題となることを知っていてのいつもの交渉手段ではないかと想像できるのである。

ベルリンのポーランド全権大使は、「交渉は極秘裏に」となどと言うのを聞くと、イラク派兵やミサイル防衛レーダーの設置なども米国と極秘裏にやったのかなどとどうしても思ってしまう。

またドイツ側は、交渉最初にポーランドのドイツ・カトリック教団の古文献を土産に差し出したに係わらず ― ヴァルシャワはシュレーダにルターの聖書をお土産に持たせたではないかと言うだろう ―、これ以上進めると国際社会での印象を悪くするのではないかとの憂慮もあり、言葉は悪いが「最終的に、呉れてしまえ」と言う風にもなって来ているのである。

しかし、ポーランドの求めているようなEU内での一人前の立場を主張しようとすれば、こうした態度はそれがたとえ国民性とは言え将来にも尾を引くだろう。

古都クラカウには、200億ドルと計上するナチの文化財破壊に対して、バッハやモーツァルトの自筆譜などが人質となっている。

自筆譜と言えば、ヒットラーの50歳の誕生日に軍需産業のフリッククルップティッセン、フォン・ゼーラーを中心としたドイツ産業会がお祝いしたヴァーグナーの譜面が永く行方不明になっている。その時、総統が満足そうに楽譜を捲りながらあれやこれやとコメントする姿が伝えられているらしい。

そこに含まれるのは、初期のオペラ「リエンツィ」や「妖精」に「ラインの黄金」、「ヴァルキューレ」、「ジークフリート」や「オランダ人」の創作過程を追うことが出来る貴重な資料であると言う。特に「リエンツィ」は、現行版の百小節以上に渡る脱落が校訂されているので、その脱落部分を含む手書きの資料で、その校訂が正しかったか間違っていたかが確かめられると言う。「全く違うように響くかもしれない」と、ヴァーグナー協会の校訂者エゴン・フォスはシュトゥンツ氏に語っている。

冷戦時はソヴィエトに持ち去られたと思われていたのだが、未だに出て来ないことから、現在はヒットラーの青年統率者バルデュアー・フォン・シッラッハが ― その未亡人の書物によると ― 南チロルに持ち出したとされている。南チロルのその地域は地理的に連合軍にとって厳しい軍事的情勢があり、当地のナチス将校と降伏交渉が為された所である。

つまり、このヒトラー個人の財産は、こうして行方が分からなくなっている。総統の膝で遊んだヴィーラント・ヴァーグナーは、ベルリン最後の時にも譜面の引渡しを求めたが、「安全に保管されている」としてそれを手放すことを阻んだと言う。



参照:
"Goethe in Krakau" von Konrad Schuller, FAZ vom 27.7.07
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