自らを穿つ躊躇いにも鉄の意志を以って遣り通して、そのセンシビリティーを内に隠すでも無く、ファンタジーをも疎かにしなかった。:エレガント・慎み深く・そしてなによりも美しい。-

これは女子フュギアスケート金メダリストへの讃辞であるが、オリンピックTV観戦をしながら、また昨日や本日付けのFAZ紙のそれ以外の文化記事を捲りながら、このセンシビリティー(Sensibility)を引き続き考えてみる。

先ずは、中国人ピアニストのフランクフルトでの演奏会評を読む。此れほどまでに跡形も無く叩き潰す評は今まで読んだ事がない。そして、「何故此処までに書かなければいけなかったのか?」、「この評論家の使命感」はと落ち着いて考えた。ドイツツアー中のリサイタルで、「神童」はモーツァルトからショパン、シューマン、ラフマニノフやリストを弾いた様で、「何を弾いても如何でも良いのではないか」と糾弾している。

ユリア・スピノラ女史が書き通したように、逐一とその理由と証明を挙げて行く作業はいかにも苦しい。何故ならばこの批評は恐らくドイツ語を解さないピアニストに読まれるとは想定されていないからだ。処刑の執行権が評論家にあるかどうかは知らないが、罪を悔いて改める事などは期待されていない訴追である。批評は、恐らく著名な演奏家達が登場する「豪華な美食定期演奏会」を訪れて一杯引っかけながら「高尚な音楽を享受」する高級新聞を捲る理知に富んだ聴衆一人一人に向けられている。もちろん、この天才少年を 発 掘 してCDを売り込むレコード会社も矛先となり、「モーツァルトやシューマンを篭り歌として、ハンガリアンラププソディーとの出会いで二歳からピアニストを志した少年」が「トムとジェリーを愛し、その音楽と育ったとして、親しみ易い普通の子のイメージを天才スターに加味するのは業界・興行界の常套手段だ。」とする。

月並みなステレオタイプ、ジャスチャー、限界、カーニヴァルのお菓子投げ、指の練習、ペダルに頼る、表情記号の無視、同じテンポの主副主題、空虚な贅沢三昧、息を詰めた、三文判の千歳飴、空虚、雑、嬉しそうに、カンズメのピラミッド崩し、深刻ぶったカンタービレと細かく叙述して、「全ては歪んだ像で、グロテスクでいやらしいく響き、素晴らしい叙述法で書かれている文章が何も分からなくて疑心暗鬼にとにかく試しているよう。」と切り捨てる。

CD好評発売中の「子供の情景」の「異国人」の演奏を乞われる子供は、モノトーンで表現力皆無と評価。これ以上述べる必要はないであろう。しかし、この 叙 述 法 には関心があるが、ここまで拘って読者若しくは聴衆に語りたいのは並々ならぬ危機感を持っているからなのだろう。批評を受けるための批評かもしれない?しかしその内容自体は、ここのBLOGで書いている事と本質的になんら変わらない。

次にビュンニク女史のシュトッツガルト歌劇場の東京引越公演からコンヴィチニー演出の「魔笛」についての批評を読む。この演出は、エジプト考古学者でフリーメーソン研究家のヤン・アシュマンの分析から、理知・叡智・自然を別けているが、典礼的な動きを一切排して恰もそこで万華鏡から感情が生まれたばかりの様に動かせて幾らかは効果を挙げていたとする。「魔笛やグロッケンにのって踊る集団交尾の動物達とタミーノがパミーナに向う情景でどっと笑いが溢れ、明らかに初めはポカンとしていた観衆もやっと解れた」と、「それにしても日本人は商店でも決して笑わないのにましてやオペラハウスでとは」と驚く。

招聘元の八百二十七万部の発行部数を誇る朝日新聞は、ヴァーグナーの「四部作」を予定していたが 商 業 予 測 から「魔笛」へと変更して、ダイムラー・クライスラー社が実験劇場よりもドレスデンのゼンパーオパー援助を選び、ポルシャ社が初めて今回後援者となった事を敢えて挙げる。企業の「文化政策」は、観客層を選ぶと言う事が良く分かる。叡智はどの車を選んで、理知はどの車を選ぶのか?国民大新聞社は、大興行師なのか第四の権力なのか?

趣味の問題である。それは、叡智でも理知でもなくて、自然を洞察するセンシビリティーかもしれない。そこでは、先ず自尊心であって、人間性が問題なのである。もしそのような感受性が疎かになるとしたら、もしそのような自尊心が未発達とすると、その趣味は自己欺瞞に満ちる。前者は、上述の演奏会評で聴衆に求められているもので、後者は演奏者に求められているものだろう。

表現には趣味が重要である。趣味を磨くのは難しい。表現の自由で、その量は保証されているが、質は保証されていない。感受性を保ちながら自尊心を維持する為には、 横 柄 で 傲 慢 なほどでなければならないと言う叡智が働く。石をも穿つような高度な商業主義の大河を臨んで、凛と自尊心を保つ事が如何に難しいか。金メダリストを取り上げるジャーナリズムの趣味の悪いアングルの写真等を見ながらそのような事を考えた。



参照:
向上に相応しい動機付け [ 雑感 ] / 2006-02-14
勇気と不信の交響楽 [ 文化一般 ] / 2006-01-06
本当に一番大切なもの? [ 文学・思想 ] / 2006-02-04
開かれた平凡な日常に [ 文学・思想 ] / 2005-12-30