最長八日間だけの環境保護への試みがスイスの12の連邦州で履行された。それは、高速道路の全域を時速80キロメートルに速度制限する、この所の高濃度の光化学スモッグ値(立方メーター当たり159マイクログラムへの上昇)が示す大気中のチリ埃の集積への緊急対策である。これを問題視した地域では、焚き火などの直火や、他に暖房設備がある限り直火の暖房が禁止されている。同時にディーゼル新車へのフィルター着用義務が唱えられた。

この行動については、事前に知らなかったが、その現場の状況や市民の反応を垣間見る事が出来た。結論から言えば、パフォーマンスとしては、この行動は大変有意義で、政策としては今後の議論の土台となると思われる。

実際の状況としては、道路上の全ての速度表示は何らかの手が加えられて修正されたり、電光掲示板で注意を促す処置がとられていた。国境線などで充分な説明が無かったのも事実で、これはこのアルプスの小国の通常の排他的な個性を示している。この行動に合わせて道路工事などを行う地域もあって、一部では大渋滞が見られた事実もある。

それでもラジオが伝えるには、スイス鉄道が日曜日には片道料金の半額セールの切符を提供したので、鉄道利用率は飛躍的に増え、道路の交通量は充分に減ったと言う。同様に各州での警察への問い合わせが殺到した。しかし試算に於いても、それほどの排ガスに起因するチリ埃の削減は見込まれていなかったので、行動に対する賛成は三分の一と低い。

しかし、環境への影響を再吟味しようという行動としては大変面白い。示唆行為として行われた訳ではないのだが、各々が体験した印象は何よりも今後の議論に於いて価値を持つであろう。高速自動車道と公共交通機関との兼ね合いは、世界中で絶えず議論となるところであり、自動車交通の安全性への批判や公共交通機関の再考察を身近でも知る。とりあえず、今回の自己体験の感想を纏める。

燃費が、時速120KMの巡航に比べて、思うほどに伸びずに、それどころか工事渋滞で総合結果は散々であった。元々高速道路の平常制限時速120KMのを有する、トヨタ車の市場専有率が高い小国であるが、この速度ならばダイハツ車の方が合理的であろうか。つまり、レギュレーションに合わせた開発が行われてこそ環境に与える影響が好転するので、無闇に速度について語っても仕方ないかもしれない。自動車の安全性も同じようにレギュレーションに準拠する。つまり産業とテクノロジーと法との相互依存の関係を忘れてはならない。それにしても時速80KMは、運転手が退屈して眠くなるらしく甚だ評判が悪い。自動巡航システムを取り入れる事が先ずは前提条件となるだろうか。問題はそうした時も、高価な乗用車を公共交通機関と比較する必要が出てくる。個人主義と機動性を重視すれば前者に軍配が上がる状況は変わらない。

アルプスの小国に於いては、こうした制限を設ける事で、経済都市チューリッヒから政治都市ベルンへのドアからドアへの所要時間の一時間半が二時間かかるようになる。その影響はある程度受け入れられるかもしれないが、国土の広いドイツ連邦では事情が大きく異なる。主なドイツの大都市間を三時間で走りぬけれる可能性がある未制限のアウトバーンに制限速度を設ける事は、大きな経済的変化を齎す。平均速度140KMを目指せる道路事情で、例えば最高速120KMの制限は如何しても受け入れられない。三時間で420KM彼方へと走れる現状と、同じ時間で200KMも走破出来ない後者の道路事情では比較出来ないからだ。労働事情や住宅事情、勿論基幹産業である自動車工業界への影響も計り知れない。つまり公共交通機関の復権と言っても、空路のヘリコプターの使用や小型ジェット機(ルフトハンザの国内線は自家用機仕様を導入)が増えることや幹動脈を結ぶ非接触型のハイテク鉄道網の敷設を意味する。

緑の党を中心に果ては過激な環境団体グリーンピースまで、この問題に関わっている。我々市民一人一人が、このような体験を通して、タブー無き将来の展望を考えて行く事が最も重要である。周知の通り、環境問題は、経済問題であり、社会文明であり、ライフスタイルであり、文化である。ライフスタイルに於いても、「スローフード」と言うようなものが何らの解決策ではなく、文化的示唆行為でしかない事と同じである。その意味からも偶然とは言え、今回のような幾分荒っぽいパフォーマンスを体験出来た事を幸運に思っている。入場料であるスイス高速税を払う価値があった。