ヤコブ・イェンセン氏は、ニューヨーク現代美術館にその作品が展示されている唯一人のスカンジナヴィア人という。デンマークのデザイン家庭電化製品ブランドB&O社のデザイナーといえば分かるだろう。彼が1964年から1989年までここでデザインを担当した商品は100種類を超えるといわれ、その中からオーディオ商品が1978年以降ニューヨークに展示されている。それらは、20世紀のデザインを代表する訳だが、その視覚的効果が与える芸術的感興、特に音楽的な影響を考えてみるのも面白そうだ。
未だに一部で人気のあるアナログLPの魅力として、「その黒い円盤の溝が鈍く光を乱反射させてまさに黒光りするのが良い」というのをしばしば聞く。水平の天秤に重石で釣り合いを取った固い針がその一本の溝の上をなぞる。ゆっくりと一秒半程の時をかけて、黒い円盤は一周する。回りながらその針は、内側へと導かれて30分程の時が流れる。この有限の時間が大切なのである。
これは、コンパクトディスクのリプレー機能や粗最高80分の再生時間とは対称を為す。フィリップス社とソニー社が協議の上で定めた規格は、最終的にベートーヴェンの第九交響曲のCD一枚への収録時間から導かれたという。手元にあるCDで最長時間収録されているのはマーラーの第七交響曲のようである。これらのCDを席を立たずに聞き通す人や機会は稀であろう。CDのエンドレス性やそのプログラム可能なアクセスの良さや利便性は、ある種の有限の美学にはあまり馴染まない。
イェンセン氏のデザインで最も記憶に残るのは、1972年に発売されたレコードプレーヤーBeogram 4000ではないだろうか。それは、従来の針を支えるアームの構造上の弊害を取り除き短い腕が横にスライドする事によって、内周と外周の特性を揃える構造となっていた。これは、レコードの溝切りのカッターの構造を模していて、技術的にも評判になり、類似商品の発売を誘発した。このような技術的新味を、その合理性をデザインするのが工業デザインだろう。しかし、改めて写真を見ると北欧家具のような木をあしらって素材も厳選して美しく新しいが、更にボタンによってマニャアルに進めたり戻したり出来るようだが、非常に使い難そうにみえる。LPの着脱も厄介そうだ。なるほど、1974年度の製造元のカタログにはLPの丁寧な扱い方が記されていて、購買前から注意深い取り扱いを意識させている。「素材を切り詰めて、アイデアをふんだんに」とのモットーをイェンセン氏は語っているが、製品自体が総合的に見てシンプルだとは決して思われない。上述の時間の芸術としての美学から見ると、この製品が音楽的であったかどうかも疑問が残る。(骨董化した空間のデザイン [ 文化一般 ] / 2005-04-03へ続く)
未だに一部で人気のあるアナログLPの魅力として、「その黒い円盤の溝が鈍く光を乱反射させてまさに黒光りするのが良い」というのをしばしば聞く。水平の天秤に重石で釣り合いを取った固い針がその一本の溝の上をなぞる。ゆっくりと一秒半程の時をかけて、黒い円盤は一周する。回りながらその針は、内側へと導かれて30分程の時が流れる。この有限の時間が大切なのである。
これは、コンパクトディスクのリプレー機能や粗最高80分の再生時間とは対称を為す。フィリップス社とソニー社が協議の上で定めた規格は、最終的にベートーヴェンの第九交響曲のCD一枚への収録時間から導かれたという。手元にあるCDで最長時間収録されているのはマーラーの第七交響曲のようである。これらのCDを席を立たずに聞き通す人や機会は稀であろう。CDのエンドレス性やそのプログラム可能なアクセスの良さや利便性は、ある種の有限の美学にはあまり馴染まない。
イェンセン氏のデザインで最も記憶に残るのは、1972年に発売されたレコードプレーヤーBeogram 4000ではないだろうか。それは、従来の針を支えるアームの構造上の弊害を取り除き短い腕が横にスライドする事によって、内周と外周の特性を揃える構造となっていた。これは、レコードの溝切りのカッターの構造を模していて、技術的にも評判になり、類似商品の発売を誘発した。このような技術的新味を、その合理性をデザインするのが工業デザインだろう。しかし、改めて写真を見ると北欧家具のような木をあしらって素材も厳選して美しく新しいが、更にボタンによってマニャアルに進めたり戻したり出来るようだが、非常に使い難そうにみえる。LPの着脱も厄介そうだ。なるほど、1974年度の製造元のカタログにはLPの丁寧な扱い方が記されていて、購買前から注意深い取り扱いを意識させている。「素材を切り詰めて、アイデアをふんだんに」とのモットーをイェンセン氏は語っているが、製品自体が総合的に見てシンプルだとは決して思われない。上述の時間の芸術としての美学から見ると、この製品が音楽的であったかどうかも疑問が残る。(骨董化した空間のデザイン [ 文化一般 ] / 2005-04-03へ続く)