今月三日のポストでご紹介した、竹沢尚一郎『ホモ・サピエンスの宗教史 宗教は人類になにをもたらしたか』(中公選書、2023年)

 

同書の合評会が、昨日、以下のような形で開かれました。

 

・科研代表者・企画者による趣旨説明

・著者によるプレゼンテーション

・科研メンバー6人による論評

  人類学の観点から

  宗教学学説史の観点から

  認知科学・進化学の観点から

  宗教現象学の観点から

  キリスト教史の観点から

  ユダヤ教史の観点から

・著者からのリプライ

・ディスカッション(オンライン参加者も交えて)

 

非常に優れた論評が繰り拡げられ、とても充実した会でした。

 

私のコメントはちょっと稚拙だったなと反省しています。担当した「宗教学学説史の観点から」において一番言いたかったのは、やはり最初に宗教についてのなんらかの定義が必要なのではないか(そうでないと、狩猟民・農耕民・牧畜民の「何について」論じているのか分からなくなってしまう)、加えて、宗教学者の利点とも言える宗教概念批判(ご存じない場合は是非こちらを*)を踏まえた議論も不可欠なのではないかという点でした。

 

 

著者から頂いたリプライは、宗教の定義の問題は当然意識していたけれど結局できなかったので今回は宗教行為論で押し通すことにした、というもので、よく分かります。誠実なご回答でした。

 

(以下は当日話さなかったことです。)

本書において高く評価されているのはデュルケームの儀礼理解と、モースの宗教行為論(いずれも所謂『社会学年報』学派の根幹)であり、両者が宗教史のなかに見事に組み込まれています。たとえば、祝祭についての以下の一節にデュルケームとモースの「微笑み」を見出すことは困難ではありません。

 

「祝祭とは自分たちの存在の条件を再確認する行為であると同時に、五感を刺激するさまざまな象徴を活用することで、生きることの喜びと集団であることの喜びを極大化する行為であった。」(366頁)

 

実は、デュルケームやモース(&ユベール)の議論には、それまでの宗教研究になかった、あるパターンが存在しました。

 

・先行研究に基づき、主題の「定義」を提示する

・集合性の観点から事例を検討することによって「定義」を批判する

・次の研究につながるような新たな「定義」を導き出す

 

彼らはこの方法によって宗教学を信仰者のための学問ではない方向へと導いたとも言えます。本書において、あそこまで所謂『社会学年報』学派が推されているのなら、この方法を採用するのも「有り」だったかもしれません。すなわち、デュルケームによる有名な定義から出発し、事例の検討によりそれを批判していく方法です。

 

「宗教とは、聖なるもの、つまり分離され禁止されたものについての信念と実践の相互依存的な体系であり、信念と実践はそれに関わるすべての人々を教会と呼ばれる単一の道徳的共同体に結び付ける(La religion est un système solidaire de croyances et de pratiques relatives à des choses sacrées, c'est-à-dire séparées, interdites, croyances et pratiques qui unissent en une même communauté morale, appelée Église, tous ceux qui y adhèrent.)。」Émile Durkheim, Les formes élémentaires de la vie religieuse, in Œuvres, Tome I, Paris: Classiques Garnier, 2015(1912), p. 91.

 

これも「ないものねだり」でしょうか。

 

最後に、会のなかで何度も感じたのは、(~教の歴史ではない)「一般宗教史」を個人が書き上げたことの意義でした。細部においていくつか問題があるのは当然のことで、それは欠点でも何でもありません。ただただ、著者に拍手を送りたいと思います。

 

 

追記

①本当に久しぶりに15名ほどの懇親会に参加しました。オンラインではなく直接交わす会話の愉しいこと! 皆さんそう口にされていて、嬉しかったです。(僕は人前で話すことには慣れていますが、実はあまり人と会話するほうではありません…)

 

皆のスマホが一斉に鳴ったときは、さすがに言葉を失い、顔を見合わせました。

 

 

②夕方に走るようになって約三週間。身体はどうなったか。

筋トレしているわけでもないのに腹筋が割れ、数か月ぶりに測った体脂肪率は12%。これが良いことなのかどうかは分かりませんし、学校が始まればまたすぐに元に戻ることでしょう。でもまあ体調は良好です。

 

…僕にはお盆休みなどありません。頑張ります。