「原子怪獣現る」 ゴジラの原点!? | 懐かしエッセイ 輝ける時代たち(シーズンズ)

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懐かしい’60s’70s’80s
ひときわ輝いていたあの時代の思い出のエッセイ集です。
毎週土曜日更新予定です。

 先週は相棒のKaneが1970年代の就職事情を書きました。
実はこの時代は私にとってはあまりいい思い出が無いですね。
数社回ってもなかなか内定がもらえないパターンは皆同じで憔悴していきました。
内定が出た時は小躍りして喜びましたが、まだ決まってない学生が気の毒でした。

 

 そして新入社員研修というのがこれまた厳しくてまるで体育会のノリでした。
半年もたたずに挫折する人もいました。

最近の就職事情を見ているとだいぶ人に優しい環境になってきたような気はしますが、いまだ過労死とかは無くならないのです。
これから伸びる会社は人材を大切にする会社だ、と言いたいところですが人気企業ほどブラックだったりします。
やはり内部から変えていくしかないのでしょう。

 


 さて、今日は特撮ものですがかなり古いです。
あのゴジラの原点ともいわれる1953年の米映画「原子怪獣現る」です。
本作は初の「巨大怪獣来襲もの」として礎的作品なのです。

 原題は”The Beast from 20,000 Fathoms”でFathomの意味は「水深6フィート(183cm)」らしいので「36000メートルの深海の獣」なのでしょうか。
Fathomlessだと「底なしの」とか「計り知れない」という意味になるので水深何メートルというより「底知れぬ不気味さ」という意味に近いのでしょうか。
となると「未知の獣」というのが正しいのかもしれません。
いずれにしても日本の特撮作品のシンプルなタイトルと比べるとややこしいですね。


<ゴジラとの比較>
 本作はゴジラより1年半ほど前にアメリカで公開されていますので日本の製作陣も参考にしたと思います。
日本での公開はゴジラの1か月後なので、製作スタッフがゴジラ製作前に本作を直接観ることは難しいでしょう。
それでも設定とかプロットだけでも参考になったと思います。

 

 「原子怪獣現る」は北極圏での核実験で目覚めた古代の恐竜が海を渡りニューヨークに上陸して大暴れするというもので
①核実験で目覚めた恐竜、②海上の船を襲う、③大都市に上陸して暴れる、という点で一致していますね。

 

 ではゴジラがパクリ作品かというとまったくそんなことはありません。
両作品を見比べると作品のスケールも特撮も演出もゴジラのほうがはるかに上だと思います。


<原子怪獣とは>

 原子怪獣レドサウルスという1億年くらい前に生存していた恐竜で氷河期に生きたまま氷詰めにされたものです。
姿はティラノサウルスというよりトカゲみたいな姿で4足歩行タイプです。
体長は立ち上がると灯台と同じくらいですが、市街地に入りこむと頭が完全に隠れてしまうのでゴジラほど大きくないですね。
体長は20メートル前後でしょうか。(wikipediaでは全長30メートルと記述されています。ただしこれは頭から尻尾までの長さと思われます)

 

 原子怪獣ゴジラのように不死身でなくバズーカ攻撃で傷を負うのですが、地面に落ちた血痕を追っていた兵士がバタバタと倒れてしまいました。
この現象を私は放射能の影響だと推測しましたが、そうでなく血液中の病原菌が原因でした。
つまり不死身ではないが攻撃して血が飛散すれば二次被害で大変なことになるというパターンですね。
このアイデアは後の時代になってもよく使われていて、たとえばエイリアンも強酸性の血液の為にうかつに攻撃できないということでより最凶のイメージを作り上げています。
不死身の怪物より現実的で実に良いアイデアですね。

 原子怪獣はゴジラみたいに放射能の影響を受けて体質の変化があったのか否かは不明です。
たぶん巨大化とか特殊能力の発現みたいなものは一切無かったと思います。

 

 残念なのが原子怪獣の名前が最後まで決まらなかったことです。
劇中でもBeast、Sea Serpent(海竜)、Monster、Creature…と様々でインパクトのある固有名詞はとうとう生まれませんでした。
良い名前をつけていればゴジラと並ぶ2大原子怪獣と称されていたかもしれません。


<特撮>
 原子怪獣の動きはアメリカお得意のミニチュア模型を少しずつ動かしてコマ撮りする手法ですね。(ストップモーション動画)
これだと動きがカクカクしてしまいますが逆に着ぐるみでは出来ない昆虫みたいな怪物や細長い海竜でもリアルな動きで再現できます。
逆に着ぐるみ怪獣のようなノッシノッシと眼前に迫ってくるあの重量感や迫力は出せません。

 

 この作品はまだ初期のものなのでストップモーション動画も少し動きは粗いですね。
破壊するものは船、灯台、自動車、家屋などですが足元にあるミニチュアを踏み潰す程度のものです。
家屋の破壊も叩き潰すというものではなくレンガ壁に突入してボコッと穴を開けるというものです。

 特に海上の船を壊すシーンはあまりリアリティがありません。
火も煙も出ず水しぶき等も合成で本物の水は一切使っていません。

 

 主に使う手法は2つの動画を合成するというものでした。
背景を映した動画に怪獣のストップモーション動画を差し込んだような映像ですね。
フィルムの時代なのでどのような技術で合成したのかわかりませんがパッと見では一つの動画に見えて見事なものです。
セットの風景画をバックに怪獣が暴れるようなシーンは巷でよくありますが、この作品はどの背景も人や車が動いているのが特筆ものです。
しかし、平面的に見えてしまうことがあるのが難点でしょうか。

 

 唯一のショッキングなシーンが警官が頭から喰われるところですが、これも警官が足をバタバタしながら空中に吊るされる動画に原子怪獣がパクッと噛む動画を合成したものですが、やはり警官が平面的に見えてしまいます。


 本作の特撮担当はあの巨匠ハリーハウゼンですが、低予算だったらしく(20万ドル)、主役の怪獣の模型でさえ一体しか作れなかったそうです。
そういえば破壊した家屋も一軒だけだったし戦闘機や戦車も1台も出てこなかったですね。
そこで暗闇に襲撃するシーンを多くするなど工夫してアラを隠すと同時に迫力が増すなど一石二鳥の効果をあげてこれだけの作品を作り上げたのです。

そして映画は大ヒット、さすがに特撮の神様ですね。


<演出>
 割とアッサリしていますね。
北極での核実験のあと原子怪獣はすぐその全体の姿を晒してしまいます。

日本のゴジラは映画開始から20分たっても頭部しか見せず焦らすことでドキドキ感を煽っていますね。
これは「怪談」等で培われた手法なのでしょうか。

 

 潜水球を襲うシーンも通信が途絶するという演出だけで決定的瞬間をまったく映さないので壊されたのか喰われたのかすらわかりません。
それからクライマックスで原子怪獣アイソトープ弾を撃ち込むという場面も銃声と怪獣の悲鳴だけでした。
低予算の影響もあるのかもしれませんが日本と演出の仕方が違いますね。

 

 やはりゴジラのように派手に飛び交う砲弾や街を破壊し尽くすシーン、放射能火焔で溶ける戦車や高圧線などなどの特撮の数々は当時の人の度肝を抜くものだったと容易に想像できます。
たぶん「こんな映画を観たかった!」という感じで世界中に受け入れられたことでしょう。

 アメリカの原子怪獣を参考にゴジラを作り、今度はゴジラに触発されてアメリカが新しい作品を作る……。
このようにお互い影響与えあいながら作品の質を高めていったのです。