【書評】品種改良の世界史 家畜編 | 書評に魔法はない

【書評】品種改良の世界史 家畜編

品種改良の世界史 家畜編/正田 陽一

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表紙の豚がとてもかわいい。
内容は題名の通りで、各家畜の発祥はどこでどのような目的を持って家畜化されたのかそれぞれの品種がさらに細かく枝分かれして説明される。
動物ごとに章が別れており、著者はみな学者である。
肉牛、乳牛、ウマ、ブタといった代表的家畜からヒツジ、ヤギ、アヒル、ウズラ、シチメンチョウ、ガチョウなどあまり日本人には馴染みのない家畜もカバーしている。
それぞれの家畜においてどのような種が残ってきたのか詳細に説明されており、遺伝学の立場から見ているのも面白かった。

乳牛は乳たんばく質、乳脂率、無脂固形分率、脂肪球の大きさが変わるため品種によってバター向き、チーズ向きなど異なる。
ブタは畜産学だけでなく考古学的にも興味が強く持たれている。
ウシやウマは野生の祖先はほとんど絶滅したが、ブタの祖先であるイノシシは世界各地で今でも繁栄し、家畜化されたブタとの比較が容易だからだ。

発育を早くすればエネルギー総量が減るため餌の効率がよくなる。食用価値の低い頭部、四肢などが小さく、肉の多い胴が長いと合理化される。
同じ肉利用でも脂肪(ラード)を重視するか、赤肉利用、それも加工用の焼肉(テーブルミート)としての利用で品種が異なる。第二次世界大戦中では脂肪(ラード)の多いブタが栄養補給のためだけでなく、機械油としての需要があるため求められる。
第一次世界大戦後、欧米のほとんどの国では食生活の改善し健康志向が強くなるため脂肪の少ない赤肉量の多い豚肉が好まれるようになった
テーブルミートでの消費が大部分を占めるベルギーでは、ラードの摂取が極端なほど嫌われ脂肪の少ないブタの改良に力が注がれた。

ちなみに、日本ではベトナムのブタはミニブタとしてペットで有名だが元の目的は愛玩動物ではなく動物愛護の観点から犬の代わりに連れてこられた。ベトナムのミニブタは耳が小さいために実験動物としては使えなかったが皮肉にもペットとして愛玩動物の道を生きることになる。

日本の畜産は国際競争力がある。
精液の凍結保存技術がもたらした日本の畜産業への貢献は計り知れない。
交配についての地理的距離は問題でなくなり都道府県の範囲とした組織体制から全国をひとつの繁殖集団することができた。戦後1947年7%であった人工授精も現在では99%である。
日本の畜産業の発展は人工授精技術を利用して遺伝的能力が優れた種雄牛を選び、選択淘汰を繰り返した結果である。
家畜の教科書的基礎知識を身につけるためには必読で遺伝学に興味のある人にもいいかもしれない。
写真もふんだんに使われているのもいい。