　音楽の世界はどのジャンルに於いても奥が深い。通り一遍揃えたつもりでも、そこから派生した作品が無数にあり、中には到底到達できない幻の作品。なんていうものも時には目にする。もちろん財力にものを言わせて手当たり次第に入手していければ、それはそれでよいのかもしれないが、当然自分にそんな財力がある筈はないし、おそらくそんな方法で手に入れても楽しくはないと思う。限られた財力、限られた時間と体力と知性で探し当てるから楽しいのだ。と嘯きたくなる気持ちもある。
　先日アンティック小物を扱うお店の傍らの段ボールに入ったLPレコードを眺めていて気になるジャケットの作品を見た。教会か城を中央に配した牧歌的で明るくほのぼのとした田園風景がイラストに描かれたLPジャケットであるが、裏を返すと蝙蝠が飛び交う陰りも見える風景。暗く沈んだ柱には蔦が絡まり、見方によっては廃墟のようにも見える。兎に角何か意味深である。

　「光あるところに影がある」は白戸三平の「サスケ」のアニメ没頭のナレーションだが、まさにそんな感じだ。描かれたイメージに更にぐいぐい惹き込まれる。内ジャケットを開くと、表に描かれている教会か城の内部と思われるところに5人の影につぶれた人の姿が。バンドのメンバーだろうか？一人は女性に見える。女性ヴォーカルがフューチャーされているかも知れない。これはもう買って確かめるしかない！と決心。事前の情報が何もない、まさに"ジャケ買い"状態である。
　情報が少なかった学生時代はバンド編成やジャケットの絵柄などを参考にしてよく"ジャケ買い"をしたものだ。失敗もかなりの確率であっただが、この年になると、さすがに冒険をしなくなった。それには昨今のネット環境の拡充による情報量により、冒険をする前にちょっとぐぐるだけで、得たい情報を得ることが出来るので失敗は少なくなった。これはこれで無駄な散財を防ぐ意味では大切だが、逆に冒険心を失い、新鮮な驚き、喜びを失ってしまった。

そんなことを思ってしまう今の自分が、LPを小脇に抱え、まさにいそいそと帰宅。盤に針を落とす時の緊張と興奮。スピーカーから流れ出る1音目で全てがわかる、その時の喜び。
この時自分はくらくらするほど懐かしい気分を味わった。あの、洗練されない、稚拙な、汗くさい青年時代の自分自身が、生涯の宝物を得たと思えた時の感情であった。
そしてそんな自分は思わず呟く。
「ああ、無知は愉しい。」
と。

無知の愉しみ ～BROSEL MASCHINE～

無知の愉しみ　～BROSEL MASCHINE～