INVINCIBLE

 
 ヘルツォーク・ファンと言っておきながら、先日やっと『神に選ばれし無敵の男』を見終えた。新作ということでいえば、『コブラ・ヴェルデ』以来だから1990年(この年はアレハンドロ・ホドロフスキーの『サンタ・サングレ 聖なる血』も公開された!狂喜乱舞の1年であった。)以来なんと16年振りということになる(しかも『失われた一万年』はまだ見ていないし…)。反省。
 ところでこの『神に選ばれし無敵の男』。ハヌッセン役のティム・ロス以外は、主役を含めて俳優としては素人さんばかりなのだという。こういうことを聞いても余り驚かないのは、『アギーレ・神の怒り』以来、ヘルツォーク作品を見てきているからなのだろう。
 とはいえ主役のジシェ役の男は本物の“世界一の力持ち”というのには少し驚いた。おそらく彼が主演する最初で最後の映画だろうと思う。しかしこれは貶しているのではない。むしろハマリ役といいたい。木訥として素朴、大らか、そして優しい力持ちの兄。という感じが良く出ている。この彼の演技は、“プロフェッショナル”のティム・ロスがそれらを対比させ、引き出したからなのだと思う。監督のヘルツォークとハヌッセン役のティム・ロスに改めて拍手を送りたい。
 さて、ストーリーについても少し。ジシェが神から啓示を受け、これからどのような活躍をしてゆくのだろう、と思っている内に物語は終わってしまう。実話を元にした映画化ということであるが、単純明快なヒーロー物にしないところが、またヘルツォークらしい。ヘルツォークだから許されるというべきかも知れない。
 DVDにはメーキング映像が付いているが、自画自賛の裏話とは質の違う内容で、これは必見です。

 ヘルツォークに『氷上旅日記—ミュンヘン‐パリを歩いて』という著作がある。重病で倒れた親友の快復を願い、そのための願かけで、厳寒期のミュンヘン~パリ間700キロを歩くというものだったが、当時すごく感銘を受けた。単純な自分は、それから厳冬期に職場までの5kmを歩くようになった。 つまりは日に往復10km程度は歩いていることになる訳だが、これが結構辛く、そして楽しい。つるつるの路面には常に泣かされるし、雪で狭くなった道は非常に歩きにくい。だけれど、視界の利かない吹雪の夜にたったひとりで歩いていると、ここは市街地ではなく、大雪山系の稜線の上をトレッキングしているような幻想を楽しむことができる。