「よう!」
目の前の椅子に知らない男が座る。ここが電車であれば目の前であっても僕に話しかけているとは思えない。だが、ここは喫茶店だ。あるいは、ここが外で人がたくさんいるならたまたま目の前に座って他の人と話しているとも考えられる。けれど、ここは室内。そして、僕とマスター。そして、目の前の男以外誰もいない。最終案としてはマスターに話しかけているパターンだが。
「おい、話しかけてるのに無視はないんじゃないか?」
それも違うらしい。どうやら、僕に話しかけているようだ。僕は改めて目の前の男を見る。金髪にピアス。気崩したスーツはだらしなさではなく格好よさを演出している。いわゆる、ホストを連想させるその男は長い足を見せつけるかのように組む。僕はいぶかしみながら口を開く。
「誰ですか?」
「おいおい、そんなに睨むなよ!まぁいきなり話しかけたのは失礼だったな」
そういうと、男はやけにキラキラした名刺を投げる。そこにはカタカナでアキラとだけ書いてあった。
「それでそのアキラサンがこんな僕に何のようですか?」
「やだなー。もう謙遜しちゃって。知ってるんだぜ?あんた、シュージさんだろ?」
その名を聞いて、背後のマスターが動きを止める。僕はその様子を背中で感じとりながらいたって平静に返事をする。
「人違いじゃないですか?」
「かもしれないな?けどよ?俺の中の野生があんたがそうだっていってるんだよねー。となるとだ、俺としてはあんたが本物だろうと人違いだろうと勝負を挑みたくなるわけで、よ!」
アキラが語気を強めた瞬間、マスターが持っていたカップが粉々に砕け散る。
「悪い悪い。つい、やっちまったわ。で、どーする?シュージさんよ?」
人をイラつかせる男だ。僕は席を立つと伝票をレジへと持っていく。すると、その後をアキラも立ち上がりついてきて先にカウンターへ一万円を差し出す。
「カップ割っちまったしなぁ。ここは俺が出すわ。釣り入らねーから」
そういいつつ、アキラは店の外に出ていく。僕はあいつのお金を無視して、自分のコーヒー代を財布から取り出す。
「巻き込んでしまって、すまない」
「いいよ。それより、修ちゃん大丈夫なのかい?」
清算しながらマスターが心配するようにきいてくる。
「大丈夫。すぐに終わるさ」
「待ちくたびれちゃったよー逃げたのかと思ったぜ」
店を出て通りの向こうの花壇にアキラは座っていた。どうやら、ここで勝負をする気らしい。人通りは少ないとは言えない。ここでやるのは回りを巻き込む危険がある。だが・・・。
「そしたら、こっちからいくぜー!」
アキラは立ち上がると同時に、片目を瞑る。それをかわすかのように僕は前へと走り出る。それと同時に僕の背後にいた通りすがりのおじさんが倒れる。流れウィンクが当たったのだ。
「ほらほら、行くぜ行くぜ行くぜ!」
アキラは次々にウィンクを放つ。僕はそれをかわしつつアキラのもとへと走り込んでいく。はずれたアキラのウィンクは周りの人々へとあたり次々に人が倒れていく。
ちっ!このままだと、回りへの被害が広がる一方だ。僕は近くにあった電柱を蹴り、そのまま、空中へと飛び上がる。
「逃がさん!」
アキラのウィンクが中を舞う僕を狙い打つ。穴だらけになる僕を見てアキラが叫ぶ!
「勝っ」
「たって言うには少し気が早いですよ」
アキラが声のした方向。上ではなく、自分の懐を見るとそこには上着を脱いだ僕がいた。そして、目があった瞬間僕はここぞとばかりにウインクを決めた!
至近距離から直撃を受けたアキラは頭から刺さるように後ろの壁へとぶつかり、そのまま動かなくなった。
「ウインクってのは打ちまくるもんじゃなく、ここぞの一発だけ決めるんだ。わかったか?」
そして、地面に落ちた上着から先ほどの店でもらったアキラのお釣りを取り出すとアキラのポケットに入れる。
そして、僕は関係ないかのごとく歩き出した。
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