今日は彼女に送迎してもらうらしい。

玄関先で出がけにトイレへ戻った君は、私に声をかけた。

『来たら待っててもらって』


その時、送迎に来るのが彼女だと100%確信のなかった私は、

『うん』

とうなずいた。もちろん息子を抱いて。

もし彼女にのせてもらうなら、やっぱりこの人の思考が私の理解の範疇外だと思った。
私に声をかけさせるのか?と。

息子を腕に抱きかかえ、玄関先まで見送るのは日課だったから、見せつけてやる、という私の目論見はきみには分からなかったでしょう。そうでなくとも鈍感な貴方には。

通りからエンジン音がきこえた。
やはり。彼女だったか。

となると、いつ今日の送迎の件を話したのか?
昨日の電話で決まったのか。
なら、おそらくラインをしたのだろうな。さっそく。

私が悲しいと言ったあの日、きみに私の気持ちのどれほどが伝わったのかは分からない。
『貴方に任せる』
そう言って話し合いは終了した。

妻が嫌だと訴えているのにそれを自分の気持ちの問題だからと意に介さない夫。
私はなめられてるのか?見くびられているのか?愛されていないのか?
悲しくて涙がこぼれた夜。

妹みたいな存在なんだ、と。
今更そんなことを言うのか、と。
息子を産んで間もない、体のボロボロな私に。
お義母さんとの同居で精神に耐えがたい苦痛を抱えた私に。

私は何のために嫁にきた?
家のローンは私の稼ぎなしに払える額ではないのに。
どうしてそれが私を傷つけると思わない?

ただただ楽しかった貴方との毎日が覆された。
私のアイデンティティーが根本から覆された。

許すとか、許さないとかじゃなく、ただただ悲しかった。途方に暮れるほど。


『来た?』
君が戻ってきた。本当にバカなんじゃないかと思う。
私が彼女に送迎してもらうことがもしかしたら嫌なんじゃないかと微塵も考えていない貴方。
なんてまっすぐなんだろう。

『うん、来てるよ』
目論見通り見せつけてやる。彼女が貴方を歯牙にもかけないとわかっていたけど、そうすることで私は彼女に牽制したかったし、少しでも貴女より上ですから、という自負を保ちたかった。

要するに、不安だったんだわ(笑)

『行ってきます』私と息子の頭をぽんぽんとなで、貴方が言う。
この頭ぽんぽんは私がきみに言ったことなんだけど、それを覚えていて、継続してぽんぽんしてくれることはうれしく思う。
愛情を呼び起こすアイテムのひとつになればという思いもある。
『行ってらっしゃい、気をつけて』貴方の無事を願って今日もこの言葉で送り出す。

旦那さんが助手席に乗り込みながらこちらに手をふる。
運転席の彼女が私に会釈をする。
私も会釈を返す。腕に抱いた息子をあやしながら。
・・・ちゃんと笑えていただろうか。



P,S 帰りの車から降りた後の、彼女を見送る貴方。
ちょっと見たくなかったかな(笑)って気になってインターフォンの映像を見たのは私ですが。