6時間39分の作品。
2012年のイタリア映画祭で公開されていました。岩波ホールでも公開していました。
それでも、この長さから映画館で観るには覚悟が必要で
まだ観ていませんでした。




DVDがレンタルされていたので、一気に4枚借りて観ました。

いやぁ、長いけれど飽きさせない映画でした。
ざーーーっくりまとめてしまえば、ローマに住むそこそこリッチな家族の
離散と再生の物語。

兄弟それぞれに、問題を抱えます。
幸せな時間もありますが、悩む時間も多い。
長時間映画だけに、そのエピソードも丁寧に描かれるので
こっちも一緒に悩んでいるような気持ちにもなります。

離散前は血縁だけが家族の絆のような感じなのですが
いろいろあって再生して行く時には
血縁だけでない「家族」の形が生まれて行きます。

血縁だけでない家族 ー これが一番私の心に残りました。

幼い女の子、リアをとっても、血縁の母親との関係と血縁でないアンドレアとの関係が対照されます。

夫婦、であることの重さと儚さ。血縁とはちがうけれど重く儚い。
これは長女ノラのエピソードや次男ニーノのエピソードで感じるところ。

日本人より「家族」の意識が強い気がするイタリアだからこその話なのかなという感じもしますが。

イタリア映画祭の時の邦題は「そこにとどまるもの」。
ジョルダーニ家の家にとどまるもの、の意味?
でも最後の方のセリフで「ここは家でなくて港だ」というものがあるので
家にとどまるもの、というのはちょっと違う気もします。
「あとに残ったもの」というか、この「もの」は人ではなくて
物の方ですね(Le Cose 、ですし)。

なにもかも無くなってしまったかのように思えても
残っているものがある、残るものがある、というような
希望の光を言っているのではないでしょうか。

お父さんが最後の方でお母さんに言う
「彼」は誰々のどこにいる、というセリフも
そんなことを指しているように思います。

ちなみに、長男役の俳優 Claudio Santamaria は、
イタリア語のレッスンで観た "Romanzo Criminale" で
Dandiをやっていた人でした。
遅くなりましたが、イタリア映画祭 2013で最後に観た映画です。


このタイトルの Equilibristi という単語。
辞書で引くと(単数形: Equilibrista)は
 1. (綱渡りなどの)曲芸師、軽業師
 2.(特に政治家などの)巧みに困難をすり抜ける人、世渡りの上手い人

とありますが、そう捕らえてはしっくりきません。
 
equilibrio は「近郊、釣り合い、バランス、良識、分別」などの意味があります。

このバランスを取る人、と言う意味で先のEquilibristaの意味があるのですが
この映画においては、巧みな人、と言うニュアンスは全くありません。
むしろ不器用にギリギリの崖っぷちでなんとかバランスをとっている、
今にも落ちそうなところをやっと歩いている、そんな感じです。
邦題の綱渡り、はそこをうまく表していると思います。

ストーリーは、正直重いです。
Giulioはティーンエイジャーの娘とまだ幼い息子を持つ二児の父親。
市役所の市民手続き窓口のようなところで働いています。
奥さんも仕事を持ち、家を持ち、幸せな人生なようでした。
ところが、奥さんを裏切る行為をしてしまった(ここについては詳しくは語られないです)ため、奥さんはどうしても彼を許せず、別れることになります。

イタリアでは離婚に際し、支払わなければならない慰謝料というか養育費の
最低額みたいなものがあるみたいです(ここはちょっとアヤしい情報)。
Giulioの役所での仕事は月1200ユーロ。
ひとり家を出て、家賃600ユーロ以上のところに住むなんてことはできません。
#ちなみに私がローマでShareのアパート借りていたとき月500ユーロ前後でした。

友人を頼ったり、ちょっとNeroな(黒い、という意味ですが
アングラなというニュアンス)
安宿に泊まったりしいますがいずれにしても収支は大きく赤字。

奥さんもそれなりに良い仕事をしているようなのですが、
なぜかGiulioは奥さんの前では困っていないように振る舞います。
ギリギリなのに助けを請うことはしません。

出口がないとさえ思える状況。映画の終盤でどうなるのかは
ここでは言いませんが、いわゆる面白い映画とは別の意味で引き込まれました。

私のイタリア語の先生は
「重くて深刻だったでしょう?でもこれがイタリアの今の現実なのよね」
と。
そうなんです。現実だからこそ、重いのです。
現在のイタリアでは、離婚が即経済的な困窮に結びつくことも少なくないとか。

イタリアの物価って、そんなに大きくは日本と違わないです。
食品は安いものも多いけれど、外食費はそれほど変わらない
(外食頻度は遥かにイタリア人は低いですが)。
大きな街の中心部のアパートは、小さい造りのものが少ないので
それなりの値段になります。
そんな中、役所で仕事を持つ40歳男性の給料が月に1200ユーロ
(このところのレートで換算して15-16万円)。
Double incomeでなら家族を支えられても、
養育費を払い、子供関連の不定期な支出も受け入れながら
一人で別の生計を立てるのは厳しいと思います。
それでも、仕事があるだけマシ、と言われてしまうのかもしれません…。

重い映画はあまり好きな方ではありません。
でもこの映画はすごく響きました。
イタリア映画祭 2013 で観た5本目。

これは、主役の男性 Guido 役の Luca Marinelli を見たくて
観た映画です

どちらかというと破天荒な彼女にたいして
「き」がつく程の真面目で本好きでインテリの、彼。
良いカップルなのです。

Guidoが本当に良い彼氏すぎる
ただ優しいだけだと、きっとAntonia(彼女)も
飽きてしまうところがあるのでしょうけれど
そうではないんです。
ちょっと嫉妬もしてくれる。
彼女のためには、無謀なこともしてしまったりする。
ちょっと、ですけどね。


私には…。
ちょっと穏やか過ぎちゃうかな。
私が、Antoniaほど破天荒ではないのでね

ちなみに、監督は Paolo Virzi.
2011年のイタリア映画祭で私が大好きだった
"La Prima Cosa Bella (邦題:はじめての大切なもの)" を
撮った監督です。
今年の作品とどちらが好きか、と言われると
2011年の作品の方がより好きですが
Tutti i Santi Giorni も、なんというか
イタリアで見かける日常が端々にあるところが好きです。
ドキュメンタリー作品の多い監督なので、
そういった「ありそうな」シーンをつくるのが上手いのかもしれません。