さて、私が最も恐れるのは小動物たちの出す弱い電磁波である。


これは太陽が沈んで辺りが真っ暗になってからのことが多い。

沢筋でビバークしていると沢の音が否応なしに幻聴を誘うが、これに小動物の電磁波が加わると、昔でいう「狐に騙された」状態に陥る。

たとえば、夜中になって誰かが来て意気投合して語り合ったりする。そして、これが全部幻であることに翌朝気付く。夢にしてはリアルすぎるし誰かと酒を飲んでいた痕跡すらあるが、語り合った相手はもうどこにもいないし、よく考えれば夜中に人が外をうろつく事は不可能な場所だったりする。

肉体的・精神的に疲労の限界に達していると、動物の弱い電磁波に影響されて幽霊と「遭遇」することは、実はよくあることである。ラインホルト・メスナー等、著名な登山家の中にはそれを楽しみにし、そこから最高の安らぎを得ている人もいる。

実は、もう何十年も過去に、ある種の電磁波を脳に当てると、強い恐怖感とともに実体の無いものを見たり感じたりすることが科学的に証明されている。これが、小動物の作為で引き起こされるかどうかの証明はないが、野生動物が完全に優位な地域にまで観測装置を運ぶことさえできれば証明可能だと思う。


ところで、この電磁波を使って外敵を惑わすのに最も長けている動物は、ニホンカワウソかと思われる。すでに絶滅したとも云われるが、私はそうは思わない。

北アのみならず、かなり都会に近い鈴鹿山地でも、ニホンカワウソの痕跡を発見しているからだ。

分かり易い例を挙げる。

ニホンカワウソは源流部()ではイワナを食するが、流れに入って捕獲したイワナをいったん崖上のテラスなど高い所に持って来て食する習慣がある。そして、身と内臓だけ食べて骨だけきれいに残して去る。

私は滝を高巻いたりしているときに、何度もこのきれいに骨だけになった魚の死骸を見ている。


始めは訳が分からず少し不気味に感じていたけれど、色々調べた挙句、このようなことをするのは日本列島本島の源流域ではニホンカワウソしかいないとの結論を得た。猛禽類は渓流魚を食すが丸呑みかそれに近い食べ方しかできない。熊は狭い場所にあがって骨だけ丁寧に残すような食べ方はしない。山猿にはそもそもイワナを食べる習慣はない。オコジョは・・・ヘビは・・・と一つ一つの可能性をつぶしていくと最後には人間とニホンカワウソしかのこらない。


わざとカワウソのような食べ方をして私を騙そうとする者がいなければ、ニホンカワウソだけがのこる。

しかし、この論法は所謂消去法であり、説得力に乏しいが、今は仕方が無い。


)ニホンカワウソは河川中下流域と沿岸に生息した(する)、というのが定説であるが、私は日本の急速な工業化にともなって標高の高い源流域へと生活圏を移動せざるを得なくなったと考えている。


(④に続く)