次に、擬声について。


山に全く入ったことが無くて心霊話に弱い人は、田舎の里山でよいから、独りで入ってみるとよい。

たいてい、女性の甲高い悲鳴に悩まされるはずだ。「キャーキャー」とうるさい。これなんかは、ニホンシカのメスの鳴き声で、人がテリトリーに侵入してきたことを周囲に知らせるために鳴いているのであって擬声ではない。単なる鳴き声である。


擬声というのは、動物が単独もしくは複数で人の声を真似たり、機械の音を真似たりすることを言う。


北アルプスの山中では、狸の擬声が観測できる。夜中にありえない方角から人々のワイワイガヤガヤと騒いでいる音がすることがある。これは狸が人の声をまねて「宴会」しているのであって「ガヤガヤ」といって黒部川源流部のカベッケヶ原などで観測される有名な事象だ。他にも、飛行機のエンジン音やヘリコプターや発電機の音などが上手い。夜中にいきなりジェット機が飛ぶことがあるが、北ア稜線上を飛ぶ飛行機は24時過ぎにはない。


上述した程度の擬声なら問題を起こすことは無い。しかし、気を付けなければ遭難に繋がってしまうものもある。それは、ありえない方角からの「オーイ、オーイ」の声。これを遭難者の声と思いこんでしまい、ついついその声のする方へ行ってしまうと、音源は必ず後退し続け、気が付けば自分が遭難していることになる。この、今にも死にそうな声で「オーイ、オーイ」と言っているのも狸で、本物の遭難者の断末魔の叫び声を過去に聞いて真似しているのだ。「死人の道案内」もこれに類する事象かと思われる。ちなみに、普通の人は森林限界よりも下では一般登山道から50メートルも離れてしまうと、たいてい戻れなくなってしまう。見通しが利かないから方向を見失ってしまうのだ。富士の樹海などがよい例である。


(③に続く)