夫と結婚する際に、さんざんゴネた。
1ct越えの指輪を買わせた。
でもそれ以上のワガママを言ったことがない。
もっとワガママを言うべきだった。
エルメスのバーキンやら、ショーメのジョセフィーヌやら可愛くねだって買って貰えばよかった。
きっと彼は呆れながらも買い充てがってくれただろう。
電卓を叩くのが早くて、己の美学を貫く強さがあり、そして愛情に溢れた繊細な人だった。
私も常々、許されるワガママを言っていたら、理不尽を感じずに生きられたかもしれない。
ずっと卵の殻の上を歩いているような感覚があった。
以前、浮気が発覚したとき、夫は私の何倍も苦しんだのは想像に容易い。
そんなこともこの期に及ばないと気付けない愚かな私だ。
私から解放させてあげられて良かったのだ。
夫が、「せめて君と一生添い遂げるものだと思ってたよ。」と言った言葉が心に張り付いて、鈍痛を放っている。
この鈍痛から解放され、静観して新たな出発に踏み出せる日が来ることを、ひたすら願うばかりだ。
たまたま視界に入った空が、あまりにも美しすぎる秋晴れで、思わず目を逸らした。
初秋の涼しく清々しい空気すらも私を責めているようだった。
黄色に色づき始め、キラキラと乱反射する木々と、青く澄んだ空のコントラストがほれぼれするくらい気持ちの良い日だった。
港区の低層界高級マンションの窓を開けて、大きい溜め息を吐いたが、
縮こまった私の喉は、吐いた分の空気を上手く吸い込めなかった。
ネバネバした鉛のようなものが私の喉や器官に粘りついていて消えない。
それらを飲み込んで胃に落とすように、酒を啜った。
酒を飲みすぎて体調を崩して入院でもしたら、不幸な私に神は微笑んでくれるかもしれない。
酒に溺れて混沌としている時だけは、私が好きな私でいられた。
数年後もあなたのことが好きならば、それは本当の愛だ。
その時に、また一緒に暮らせたら幸いだ。
さようなら。世界で一番愛しい人よ。
持ち得る全てを尽くして、彼を精一杯愛した。
大好きだったよ。
過去を追わざれ
未来を願わざれ
ただ今日なすべきことを熱心に成せ
この説法が心に染み渡る。
これからは一人でこのコンクリートジャングルを生きていく。