私は九州の片田舎の出身である。
最近ようやく政令指定都市になったくらいの、パッとしない街で生まれ育った。
田舎の陰湿さは異常で、
フェラガモのパンプスの底にさえ、べったりへばりついてきて、いちいち歩みを邪魔するのだ。
それがたまらなく嫌で、上京してきた。
実家から車で1時間弱掛かる、山奥にある空港まで親に送ってもらい、成田第三ターミナル行きのLCC航空に飛び乗った。
成田から乗ったリムジンバスが首都高速に差し掛かるとき、こっそり窓の外を覗けば、
無数の高層ビル群のキラキラした灯りが迎えてくれるのだ。
ゾッとするくらい無機質で静かで冷たいその夜景が、当時の私はたまらなく好きで、ずっと窓の外を食い入るように見つめていたのを覚えている。
都会の絵の具に、骨の髄まで染まった。
先代の魂まで、東京に売った。
昨日も今日も、一昨年も来年も、
結婚してようとしていなかろうと、
天涯孤独で上京してきて、故郷を売った私は、
ずっと一人だ。
終わりなき闘いをずっと、ずっとしてきた。
これからもしていくだろう。
故郷と決別しないと、見られない景色があった。
それでいいのだ。
車もノロノロ走っていて、変なイントネーションの方言に溢れた、どん臭い城下町に紛れて死んで行く方が、私にとってはよほど恐怖だった。
私をここまで重装備にしたのは、東京のこの土地であることには間違いない。
田舎者の右も左も分からぬ、方言も抜き切れていない若い女が、ここで生き抜くためには、そうするしかなかった。
いつしか、九州出身だと言うと驚かれるくらいには完璧なイントネーションで話せるようになった。
愛嬌を持って、他人を懐柔させる術すらも身に付けた。
必要であれば可愛らしい方言だって喋ってみせる。
ここでは、いくらでも道化を演じられる。
死に際に見る景色は、自分で決める。
そうやって生きて行こうと、上京する際に、自身に誓った。