何月だかもう忘れてしまったけれど、

闘病中の手帳は今は見ることができないから

記憶の中だけの話です。

 

東京の大学病院での外来受診のためにホテルに泊まっていた。

夕食をどこで食べようかといつも悩んでいた。

抗がん剤の味覚障害で食べられるものが少なくなっていたから。

彼が今日は焼肉にすると言って、

ホテル近くにあった人気の焼肉屋さんをスマホで探してきた。

一緒にそのお店に行ったら29日の肉の日で、

とても混み合っていてすぐに入れそうもない。

待つことのできない彼は他のお店にすることに。

近くを歩いていたらいきなりステーキがあった。

入ったことはなかったけれどここにしようということになって入った。

文字通りのいきなりステーキだった。

 

意外なチョイスだったけれど、

ステーキソースを使わなかったことで味も大丈夫だった。

彼が200g超えのステーキを完食できて私も嬉しくなった。

体力を落としたくない、体重を増やしたい

そんなふうに思いながらステーキを食べている。

お酒が大好きだったのにノンアルしか飲めないし、

味覚障害でステーキソースも使えないけど

何とか食べなきゃいけないと必死になっている彼。

そしてそれを横で祈るように見つめている、

そんな気持ちなんて誰にもわからない。

ビールを飲みながらステーキを食べる私たちは、
知らない人がみたらごく普通の夫婦のごく普通の日常。

きっとそう見えていたのだろうな。

 

そんなことを思い出したイイニクの日。

もう二人で行くことはできないけれど、

彼のお財布には今でも肉マイレージのカードが入っている。

 

 

 

DieMaus