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TOP 5 映像美の極致。美の頂点に君臨する頂点作品
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映像美の世界には、数多くの傑作群とはさらに一線を画する別格の次元にいる四天王がいた。
自然美のテレンス・マリック、貴族系のルキノ・ヴィスコンティ、廃墟系のアンドレイ・タルコフスキー、様式美のセルゲイ・パラジャーノフ。そして、さらに日本ではあまり知られてないイランの最大巨匠の超絶映像美作品が加わるTOP5。
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第 5 位
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スラム砦の伝説 (1984) ソ連 監督:セルゲイ・ パラジャーノフ
キング・オブ・ザ・フォーマリスト、様式美の頂点。
映像美というとお約束のように使われる「光と影」なんてちょこざいな技に頼らず、
白昼堂々、構図美と色彩美のみのストレートフラットで勝負できる唯一無二の映像芸術作家。
セルゲイ・パラジャーノフ。
世間では代表作として圧倒的に人気なのは『ざくろの色』、そうでなれけばデビュー作『火の馬』だと言われる場合がほとんだだが、個人的にはこの作品『スラム砦の伝説』に完膚なきまでにやられた。
もうこういうレベルになったら言葉だけで語れることは何もない。
画像を観てください。
なんだ、このシンメトリーは?
単に左右対称なだけじゃなくてやたらに美しいじゃないか。
また来た! なんという美しさだ。
もう一発!
お馬さんも左右対称。
鳥も左右対称。
これも左右対称・・・じゃないが、
なんだ、この子犬っぽい馬のようなラクダのような小動物は?
異常に可愛いじゃないか。
バカバカしいくらいシンメトリー。
でも当然ながら凄いのは構図が左右対称になっていることではではない。
左右対称にするだけなら猿でもできる。
問題はそのすべてが手を変え品を変えながら別々な様式で、そしていちいち完璧に美しいことだ。
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もちろん、左右対称だけが能じゃない。
ロングショットの遠景を手元のキャンパスのように自由自在に絵にしてしまう。
どんだけすごいイマジネーション力してるんだよ。
↓このシーンは、静止画ではなんのことかわからないので、是非、動画で見てください。
なんと羊の集団をまるごと、動く絵の具のように使っている!こんなの観たことない!
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そして、これがパラジャーノフの真骨頂。
闇に頼らず白昼堂々と描く極彩色の映像美。
この超絶エキセントリックな極彩色。
なんか、あのミッシェル・オセロの『アズールとアスマール』を実写にしたみたいだと思いませんか?
これとか。
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白昼だけじゃないよ。
闇だって使えるんだよ。
どうなのこれ?
「光と影」なんてちょこざいな技に頼らず、白昼堂々の色彩美と言ったけども、
別に「光と影」ができないわけではない。
こんな感じで。
これは無敵だ。無敵すぎる。
8月16日現在、Youtubeで鑑賞できます。
『ざくろの色』と違ってストーリーがあります。見やすいです。
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第 4 位
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天国の日々(1978) アメリカ 監督:テレンス・マリック
映像美の神、四天王の一人テレンス・マリックの代表作。
今でも映像美を語るときは、この『天国の日々』を映画至上最強と呼ぶ声が多い。
この前代未聞、空前絶後の美しすぎる作品で世界を仰天させた後、監督は忽然と姿を消した。
そしていつしかテレンス・マリックは、映画界で伝説的存在として語られるようになった。
20年後に復帰した時は、世界中のどんな有名俳優も群がるようにマリック監督の映画に出演したがったという。
この作品が有名なのは、マジックアワーと呼ばれる、日が暮れても光が残っている夕方の20分間(その時間帯は何もかもが最も美しく見える)だけで映画全編をコツコツと撮影したという話。
何が凄いって、その映像美への執念。
それが凄まじい。
一日にたった20分の撮影のために毎日毎日、撮影の準備を行い、役者が現場に通い、後始末をするのだ。
よく総予算うん十億円の超大作といわれるが、この映画制作の方法はどんな大金でも買えない贅沢さだろう。
その奇跡のような映像美がこれだ。
空を駆ける機関車。
この絶妙なアングル。煙までが美しい。
きたきた!これがマジックアワー。
まるでミレーの絵のようですね。
動物たちも神々しく輝いてます。
この色あい。たまりません。
言葉を失う「稲穂の風踊り」。これは静止画ではわからないので是非本編で観てください。
いや、いや、美しいですねえ。
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第 3 位
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ギャベ (1996) イラン・フランス合作 監督:モフセン・マフマルバフ
映像美大国イラン。
その最大巨匠マフマルバフ監督。
そしてその最強の映像美作品がこれ。
初めてトレーラーをみた時は目を疑った。
え、なに、これ?これすご過ぎないか?
映像美と評判の高い作品はもう一通りはみたつもりだったので、まさかこんな超絶美作品がまだ残っていたとは。
タルコフスキーやヴィスコンティ、マリック、パラジャーノフは映像美話題では必ず出てくるし、『真珠の耳飾りの少女』『ザ・フォール/落下の王国』とかも必ず名が挙がる。
だが、マフマルバフ(というよりイラン映画)、特にこの作品についてはまったくノーマークだったら、驚きも大きい。
民族文化をフィーチャーした色彩にあふれた様式美では絶対神パラジャーノフに匹敵するし、映像美の定番アイテム「風に吹かれて波のように揺らめく草原や麦畑」については、パゾリーニの『アポロンの地獄』、タルコフスキーの『鏡』やテレンス・マリックの『天国の日々』の各シーンを凌駕している。
こうなるともう字幕もストーリーも追う余裕がない、というか必要ない。
映像の美しさだけで陶酔の境地に入ってしまう。
絨毯が小川を流れる映像から始まる。
絨毯をバックに壺をかかえる女。
かなり『ざくろの色』のような世界だ。
バックのグレーの木の色。なんだ、あれは。
なんかとてつもない映像美映画の予感が。
右手前はりんごの木。
女性の衣装が実にカラフル。
色のこの淡さってなんなんだろう?
イラン映画ではこのパステルがかった淡い色彩を見るが、イラン独特なのだろうか。
これ。奥の小さな3本の木のこの色。
実写ではなく絵画の、ルノワールみたいな油絵みたいなこの感じ。
そして、これが映像美クライマックスの「風に揺らめく草原の波」。
眺めているだけで脳内麻薬で恍惚状態になって逝きそうになる極楽映像は、『ノスタルジア』での水浸しの廃屋、『ブンミおじさんの森』での小さな滝と池に続いて3つ目。
いつも、光や水や風の揺らめき系映像美は静止画で表現できないことがじれったくて、画像アミメで再現することに挑戦してみたが、やっぱり本編の美しさは全然表現できなかった。
本編はこんなのとは比べものにならないくらい美しいです。
こっちは、光が織りなす草むらと影の妙。
カラフルな映像美の洪水。
絨毯の海。
ペルシア絨毯です。
っていうか、イランとはペルシアのことだということを最近知りました。
民族大移動。
子供寝てます。
うお。羊もロバに乗っている。
鶏も乗っている。
っていうか、卵を産むのか?
やっぱりどうもイランの女の子は可愛過ぎるんじゃないかという疑いがあります。
真っ白の世界。
真ん中で点のように見えるのは馬。
なんと美しい夜景なのでしょう。
孫のように若い娘をくどこうとして失敗し、奇声を発しながら絨毯とリンゴに八つ当たりする爺さん。
男はどの国でもだいたい同じですね。
文脈とは関係なくリンゴが綺麗だ。
もう一発きた。草原の波。
やっぱ見惚れてしまう。
続いて今度は風に揺らめくススキの波。
そしてこの湖。
休む暇もない映像美のたたみかけ。
いやあ、もうすごすぎ。
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第 2 位
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ノスタルジア (1983) イタリア・ソ連・フランス合作 監督:アンドレイ・タルコフスキー
映像美に対する考え方を根底から覆させられた神作品。
エンタメ至上主義の天敵、芸術至上主義を唱えるアンドレイ・タルコフスキー監督。
いつもは「面白くない映画なんか要らない。芸術なんてうさん臭い」と悪態つくのだが、
これはもう完敗、白旗挙げまくり。
私が悪うございましたって感じ。
この映画、もういきなり、これまで観てきた映画ではありえない未知の体験ばかり。
登場人物が話す時にツーショットにしない。
話者を交互に映す時も目線をあわせてない。
っていうか、顔すらも移さない時もある。
真っ暗い中、女性は声だけ。男は背を向けたままとか。
ありえない。。
こんなの普通の映画ではありえない。
さらに、もっと強烈に面食らうのが固定画面放置プレイ。
一つの場所で固定画面のまま長時間静止するのだ。
しかも真っ暗なホテルの部屋。その間、主人公は寝ている。
それをずっと凝視させられる。
ありえない!
普通の映画では絶対にありえない。
ところが驚くことになんか美しいのだ、これが。
退屈するどころか、じーっと凝視してしまうんだなあ。
長い窓から見えるシトシト雨。
丸い鏡の部屋と左の壁に儚げな雨の影がユラユラ。
その間、唯一の音声である雨の音がしみじみと染み入って。
これまでには経験したことのない魔法のような映画体験。
これは衝撃的だああ!
本作品、最初の廃墟クライマックス。
変人の世捨て人ドミニコが住む廃墟のような家。
この色。
どうなんですか。
この色。
故郷に残された家族を想う回想シーン。
神秘的な朝靄に包まれた映像は、まさにノスタルジアな美しさ。
本作品、最大の廃墟クライマックス。
水浸しの廃屋でのユラユラキラキラ。
静止画ではわからないが、壁が水に反射した光でユラユラしてる。
開いた口がふさがらなくなる美しさ。
ユラユラ、キラキラ。ユラユラ、キラキラ。
究極の映像美に頭がボーっとなって恍惚状態に入ってしまう。
ああ、逝く、逝ってしまう。
自分的映画体験史上、最高の映像美だあ。
タルコフスキーの映像美は「水」「光」「火」「風」「草」「土」の自然の物質要素。
それも、広い空、白い雲、青い海みたいなのではなく、もっと質素でシンプルな物質的なもの。
これとか、なんでもない、どこにでもありそうな単に雨漏りとビンだけなんだけど。
映像でみたらもの凄いんだよね。
これも単に本を燃やしただけ。たったそれだけのことなんだけど。
炎と水面の光の揺らめきが溶け合ってなんともいえない美しさが。
これもう、質素を通り越してゴミだよね。
タルコフスキーが廃墟美なのは、実際に廃墟を撮影現場にするだけじゃなくて、着眼点が廃墟探検系なんだよね。
水が抜かれてドドメ色の温泉。
汚い物を芸術にしちゃうんだよなあ。
埃一つもついてなさそうな無菌的潔癖映像美のキューブリックと朽ち果てて汚くなったものを好んで絵にするタルコフスキーは対極的で面白い。
そして最後にまたもや火。
なぜかなんとなく間抜けな焼身自殺シーン。
飼い犬の遠吠えが泣ける。
ああ、もう凄すぎ。
廃墟美の神、タルコフスキー。
ノスタルジア [DVD]/オレーグ・ヤンコフスキー,エルランド・ヨセフソン,ドミツィアーナ・ジョルダーノ