診てもらえる医者が決まってからは、あれやこれやと言う間にいろいろな事が進んだ。先ずは週を明けて月曜の朝イチで直属の上司に状況を説明した。いつ休みに入っても良いように、引継ぎ準備を早速開始する。並行して病院の予約が金曜日に入った。
そして金曜日、旦那さんとプライベートの病院へ。
病院はうちから車で20分程、かのテニスで有名なウィンブルドンにある。ちょうどトーナメントの真っ最中だった。ウィンブルドンの駅からテニス会場へ行く人達を横目に病院へ向かう。プライベートの病院はレンガ造りのこじんまりした建物で、病院のイメージとはかけ離れている。駐車もフリーでNHSの病院とは雰囲気が全然違う。
レセプションでの受け付けも全く並ばずに直ぐに通してくれて、奥の診察室の前にある待合場所に通された。お水やお茶、コーヒーもフリー。さすがプライベート。
待合場所にはすでに誰かが座っていた。
暫くしたら部屋から男の人が出て来て先に待っていた人が呼ばれた。
旦那さんと目を合わせて『あの人がドクターだね』の無言の合図。実はスイッチの入ったうちの旦那さんは事前にドクターの経歴等を調べまくり、このドクターに関しては全て熟知していたのであった。
前の人の診察が終わり数分後、またそのドクターが部屋から出て来て今度は私の名前を呼んだ。旦那と一緒に部屋に入る。小さな部屋に大きな机。部屋の隅に診療台。ドクターと初めましての挨拶を交わした後、机の直ぐ横にある椅子に座るように促された。
先ずはドクターがどういう経緯で自分の事を知ったのか?を聞かれた。プライベートの医者は必ずこの質問からだ。ドクター同士、横の繋がりが強いようだ。
「プロフェッサー イーストウッドから紹介してもらいました。」旦那さんが答える。「どんな状況なのか説明してくれる?」とドクター。旦那さんが始めから説明してくれる。ドクターはメモをとりながら話を聴いている。一通り話し終わって…
「話を聞く限り、腎癌だね。腎癌の場合、バイオプシーをしなくてもスキャンで大体の診断はつくんだ。」「先ずはオンコロジスト(腫瘍内科医)に診てもらわないといけないな。」「知り合いのドクターに至急会えるかどうか聞いてみる。」と言って電話を掛け始めた。
「ハロー、リサ。ここに至急診てもらいたい患者がいるんだ。直近で会えるのはいつ?」「火曜日の午後1時、チェルシーのロイヤルマースデン。行ける?」と問われて「もちろん、行きます。」と答えた。
電話を切ってからドクターが説明してくれた。最近の腎癌は薬で寛解する場合もあるから、先ずはオンコロジストと会って治療方針を話し合う事。その上で手術する事になれば、その時は私の出番(彼は泌尿器専門の外科医)だから、またここで会いましょう。手術する場合に備えて準備はしておくよ。今日もこれから血液検査、尿検査を一通りして行って。
こんな感じで物事が周り始め、その渦の中心にいる私はなんだかどんどんと沈んでいく感覚だった。そんな私を旦那さんが一生懸命に引き揚げてくれていた。