作家という職業はすごいなと思う。そしてその作家を人を育てるのが社会なら、国がもっと教育にお金をかけるべきだと思う。せめて国立大学くらいは無償化しないと・・・。

 

 

本書の夢見る図書館によると、図書館創設を提案したのは福澤諭吉だそうだ。日本に「ビブリオテーキ!」がないと近代国家になれないと叫ぶ。すごい。欧州の文庫を視察して即座に日本の教育に必要だと創設してしまうところ。明治維新はそんな気風と柔軟性があったということだ。

 

明治五年日本初の近代図書館「書籍館」開館。紆余曲折の後に、明治八年湯島の聖堂大成殿に文部省管轄の「日本書籍館」発足。明治政府の名だたる要人たちが、国威発揚と富国強兵を叫ぶなか、大事なのは教育だと説く官吏は永井荷風の父親久一郎。国民に本を読ませない国は亡びる。ものを考える力を養うことですって。さすがだ。まだ永井荷風は生まれてなかったらしい。永井久一郎の蔵書集めがまた素晴らしい。文部省創立の東京書籍館は「ペンは剣よりも強し」と英文で記したそうだ。

 

しかし、二年後にペンは剣に負けてしまう。西南戦争で戦費が嵩み、東京書籍館は廃止の憂き目にあう。蔵書は東京府に下げ渡されて東京府書籍館として何とか存続。もちろん永井久一郎が奔走して何とか蔵書は守ったわけだ。

 

ここまで読んで、まずは永井荷風を読もうと思った。次に、湯島聖堂大成殿に孔子廟があるらしい。知らなかった。ここにも行ってみたい。

 

こうして図書館の創立は政府の意向に左右され、すなわち戦費が増えると予算が削られ、それでも明治の文豪を生み育てた貴重な場所であったというから、戦争と図書館の関係は興味深い。戦争は教育よりも重視される。いまの日本も、防衛費の高騰で、教育費が家計を圧迫しているというのに、お粗末な政府の対応が変わらない。

 

その後、文部省の管轄となって図書館は存続する。しかし紙は燃えやすく、火災の危機もある。戦争が激しくなれば蔵書を避難させなければならない。言語統制時には伏字で書かれた小説も保存する。図書館は、世の中の出来事を言語という媒体で後世の人々に残し、日本の重要な歴史を刻みながら、国立国会図書館として存続していくことになる。

 

この物語が、そんな図書館の歴史や文豪たちの歩んだ道を「夢見る図書館」でたどる一方で、喜和子さんという謎の多い人物が登場する。そして作家になったばかりの私に、図書館が主人公の本を書いてほしいと依頼する。

 

喜和子さんと作家の関係は細々と続く。喜和子さんはなぜそんなことを頼んだのか?喜和子さんは天涯孤独なのか?いや喜和子さんの交友関係は、元大学教授やホームレスなど、なかなか個性的。戦後の上野界隈の雑踏に住む人々の様子も興味深い。図書館と喜和子さんの生い立ちが交錯しながら、虐げられてきた日本の女性の歴史もまた刻まれている。

 

というわけで、国会図書館の設立に携わった人々、その図書館によって生み出された文豪たちや女流作家たちが、時代を反映していてなんとも興味深い一冊。戦後に日本国憲法に携わる女性の仕事に大いに寄与する帝国図書館は、国立図書館になる。なるほど、やっとわかった。これは女性の物語なんだ。

 

それに本書は「夢見る図書館」に登場する作家たちの本に興味喚起されるようなっている。若い頃読んだ本もあれば、もう一度読んでみたい本もある。とりあえず、購入したのは山本有三著「女の一生」下巻。上巻は三千円超の高値の古本しかみつからず、やむを得ず図書館で借りた。もう、この本を買うことはかなわないと思うと残念。反面、国会図書館には保存されているだろうと安心した。もう一冊は、伏字で出版されたという石川達三著「生きている兵隊」でこちらは簡単に購入できたうえに、伏字復刻版となっていた。

 

さて、まずは図書館借りた本を読むとするか・・・・。