本書は150回の直木賞受賞作でした。朝井まかて氏の二冊目の読本として選択。選択の条件としては、積読になった場合を考え、場所をとらない文庫本が良いだろうと思ったので、内容も吟味せずに購入しました。私の生まれ育った水戸の幕末の騒乱もよくわかり、歌人として萩の舎を立ち上げるまでの中島歌子の壮絶な半生が交錯します。残念なのは、茨城弁の使い方がちょっと・・・そこのところは割り引いて読みました(笑)

 

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花圃に、「萩の舎」を主宰する歌人、中島歌子の病の知らせがもたらされます。萩の舎は名家の令嬢が花嫁修業の一つとして和歌を嗜み、かつて門下生は千人を超えていたとされています。歌子は樋口一葉の師としても有名です。家の没落で小説に手を染めた花圃と亡き一葉は、歌子に目をかけられた弟子で、花圃は、いまや何不自由なく暮らす令夫人。

 

歌子を見舞った花圃と萩の舎に奉公していた女中の中川澄ら二人は、自宅に届いた手紙や見舞品の整理を任されます。澄は百姓の出。官吏に嫁ぐときに歌子の養女として籍にいれてもらい、女執事の役割をこなす切れ者でした。

見舞い品など一つもなく、歌子に往時の勢いはなく、世間では「やまとうた」より、与謝野晶子らの新しい歌人たちがもてはやされています。

 

二人は文箱にあった200枚以上の半紙の束を見つけます。

 

江戸は池田屋旅館(水戸藩上屋敷の側で藩士の定宿)の娘として育った登世(後の歌子)が、夫となる水戸藩士林忠左衛門以徳との馴れ初めから水戸での日々が綴られます。

 

水戸藩の窮状を良く知る母に何と説得されようとも、やがて桜田門外の変が起き、以徳の消息さえわからない時でも、登世の一途な想いが叶い、池田屋に住み込みの爺や清六を伴って、持参金つきの商家のお嬢さん登世は、意気揚々と水戸に嫁いでいきます。林家は、150石取りの中士の家で、以徳には妹のてつがいます。登世が小鬼と呼ぶてつは、武家は質素倹約が第一と商家の派手な装いの兄嫁への反発を強め、取り付く島もない有様です。実際、林家の台所事情は、登世の持参金によるところが大きかったようです。

 

そして林忠左衛門以徳は、水戸藩主徳川慶篤に仕え、尊王攘夷の藩士として、天狗党と諸生党との内乱に巻き込まれていきます。藩の内紛が朝廷への反逆とされて、藩政や幕府に翻弄されていきます。

 

ネタバレにならないように、この辺でやめておきます。

 

というわけで、いまさらながら、幕末の水戸藩がよくわかり満足感がありました。登場人物の誰もが魅力的で、小説の中でその役目を務めてると感じられるほどです。天狗党の藩士として以徳は、何のための改革ということを冷静に考え、もしかしたら明治維新に活躍できたかもしれない人物。そして国元になかなか帰れない以徳を待つ登世の恋心が歌にこめられ、歌に素養のない私にも切々と伝わってきます。一方で、家を守ることだけが女の心得としての小姑のてつの生き方も、否定できません。そして嫁ぐ登世に従って水戸にやってきた清六の生きざまも天晴ですね。そして最後に驚くべき事実が明かされるところも・・・・。