「心淋し川」で直木賞受賞の氏の著書を初めて読みました。

 

IMG_2232.jpg

 

「ごんたくれ」とは面白いネーミングですが、ここでの登場人物である彦太郎と豊蔵のことらしいです。二人は初っ端から喧嘩腰で、彦太郎にいたっては、刀の鞘に手をかけたところを、円山応挙の同門兄弟子源琦にとめられます。彦太郎は応挙の弟子でありながら、武士の出であることに、誇りをもっている節があります。彦太郎こと吉村胡雪と豊蔵こと深山箏白の出会いは、ここでとめられなければ殺傷沙汰、そして胡雪の絵が転がり落ちなければ、その人生が交錯することはなかったはずです。

 

安永4年、徳川家治の世で「平安人物志」の第一位となった円山応挙の人気は、うなぎ登りでその弟子の数でも群を抜いています。それだけの人を束ねる鷹揚さをもち、大作を仕上げる能力を有する絵師です。円山応挙の写実的な絵は、人間の魂を描く豊蔵のような絵師には、甚だ不満であり、応挙を師と仰ぐ彦太郎にその矛先が向かいます。応挙の絵と豊蔵の絵それぞれにひきつけられる彦太郎。彦太郎の葛藤は深まります。

 

というわけで、解説によると、吉村胡雪は長沢芦雪を、深山箏白は曾我蕭白をモデルとして、同時代に生きた二人を交差させる物語を創作したそうです。

 

二人の生い立ちに漂う孤独感が、ごんたくれの性格を形成し、人の心を射抜く豊蔵は、彦太郎に自分と同質の孤独をみたのかもしれません。そして大雅と玉蘭そして若冲に彦太郎を引き合わせる豊蔵は、葛藤をかかえた彦太郎の絵師としての成長を促そうとしているように感じられます。才能あふれ絵師たちの大作に接し後に、彦太郎の才能が開花していく様は、ごんたくれな豊蔵にも小気味よいものだったのかもしれません。二人のごんたくれが、微妙な距離を保ちながらも、互いの絵を通して、長い年月をかけて交わっていく過程で、それぞれの絵の解説がわかりやすく、絵の素養のない私にも、何となくその絵を想像することができるところが、この著者のすごいところです。

 

彦太郎と豊蔵以外は、実名で絵師たちが登場します。ごんたくれはこの二人だけじゃないところで、ちょっと笑わせてくれます。そして、彦太郎を取り巻く絵師たちへの興味もわいてきます。彦太郎の師匠である円山応挙には、三度の破門を言い渡されていますが、応挙との子弟関係がどうなるかは、ここでは明かしません。そして彦太郎にこんな人生の結末が用意されていようとは夢にも思わずに、読みました。

 

読了後に、まずは円山応挙の絵を見る機会があったら良いなと思っています。検索した絵は、素人目には綺麗で華やかな印象ですが、実物をみないことには、何とも言えません。芦雪の絵はみたことがありません。こちらも、もちろん見る機会をさがしたいと思います。

蕭白のほうは、こんな本を持っています。9年前?のボストン美術展で蕭白の絵にひきつけられ、その後にこの本をみつけ購入しました。ごんたくれの豊蔵に蕭白を重ね、改めて蕭白の魂の絵に見入ってしまいました。

 

IMG_2236.jpg